「生物学探偵セオ・クレイ 森の捕食者」アンドリュー・メイン著、唐木田みゆき訳
はっとするほど新鮮な物語だ。主人公は、生物情報工学を駆使して事件を解決する天才教授セオ・クレイ。この男がとにかくすごいのである。
まだ事件が表面化していないのに、先に死体を発見してしまうのだ。自然科学に対する広範囲な知識を持ち、分析力にも優れ、さらに斬新な手法で推理を積み重ねるセオ・クレイにしてみれば、このあたりに死体が埋まっているはずだ、というのは当然の結論なのだが、そう言われた警察はどうするか。まだ事件が表面化していないのである。それなのに死体を発見するということは、おまえが埋めたのではないかと疑うのも当然。あまりに鮮やかすぎる推理は疑わしい、のである。現代の名探偵はその疑いを解くところから始めなければならないから大変だ。
真実をあぶりだす過程がスリリングで、スピーディーであること。モーテルの支配人ガスや、ウエートレスのジリアンなど、脇役が活写されていること。最後に現れる「悪役」の存在感に圧倒されること。凄まじいアクションが迫力満点であること。なんと美点が4つも積み重なった傑作なのである。読み始めたら止まらないほど面白いから素晴らしい。
マジシャンでもあるという著者のアンドリュー・メインは、これが日本初紹介。本書はセオ・クレイシリーズの第1作で、すでに3作まで書かれているというから、すみやかに続刊が翻訳されることを期待したい。 (早川書房 940円+税)