「神獣の都 京都四神異譚録」小林泰三著
京都水盆、というのがある。京都盆地の地下深くに大量の地下水をためる自然のダムがあり、それを指す言葉だが、その地下水の量はほぼ琵琶湖に匹敵するという。その地下に眠る京都水盆で、朱雀がそっと体を横たえて体の回復を待っているくだりがある。
朱雀とは、鳳凰ともフェニックスとも火の鳥とも呼ばれる巨大な神獣だ。翼をひろげると5キロに及ぶ。
その神獣がいま、ひっそりと地下水の中に横たわっている――このイメージが鮮やかだ。
本書は現代の京都を舞台にしたファンタジーなので、この手のものを苦手とする読者もいるかもしれないが、しかし読み始めるとやめられなくなる。京都は古来、麒麟と四神が守ってきた地で、長い間、共存共栄してきたのだが、ごく最近、その微妙なバランスで成り立ってきた関係が崩れ、互いに戦うようになってしまった。そこに巻き込まれる青年を軸に、四神以外にもいろいろな勢力が絡んできて繰り広げられる戦いを活写したのが本書だ。
「この人、全然あかんかった」「そやけど、こいつに頑張って貰うしか、方法は残ってへんで」
という会話から明らかなように、全体にコミカルな雰囲気が漂っていて、なかなか楽しい小説であるのも特徴だ。
神獣の持つ超能力もケッサクで、風太郎忍法帖を思い出す。ぜひ続刊を期待したい。
(新潮社 630円+税)