著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「神獣の都 京都四神異譚録」小林泰三著

公開日: 更新日:

 京都水盆、というのがある。京都盆地の地下深くに大量の地下水をためる自然のダムがあり、それを指す言葉だが、その地下水の量はほぼ琵琶湖に匹敵するという。その地下に眠る京都水盆で、朱雀がそっと体を横たえて体の回復を待っているくだりがある。

 朱雀とは、鳳凰ともフェニックスとも火の鳥とも呼ばれる巨大な神獣だ。翼をひろげると5キロに及ぶ。

 その神獣がいま、ひっそりと地下水の中に横たわっている――このイメージが鮮やかだ。

 本書は現代の京都を舞台にしたファンタジーなので、この手のものを苦手とする読者もいるかもしれないが、しかし読み始めるとやめられなくなる。京都は古来、麒麟と四神が守ってきた地で、長い間、共存共栄してきたのだが、ごく最近、その微妙なバランスで成り立ってきた関係が崩れ、互いに戦うようになってしまった。そこに巻き込まれる青年を軸に、四神以外にもいろいろな勢力が絡んできて繰り広げられる戦いを活写したのが本書だ。

「この人、全然あかんかった」「そやけど、こいつに頑張って貰うしか、方法は残ってへんで」

 という会話から明らかなように、全体にコミカルな雰囲気が漂っていて、なかなか楽しい小説であるのも特徴だ。

 神獣の持つ超能力もケッサクで、風太郎忍法帖を思い出す。ぜひ続刊を期待したい。

(新潮社 630円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャースの“朗希タンパリング疑惑”で大迷惑!米29球団&日本プロ球団こぞって怒り心頭の納得理由

  2. 2

    柔道ウルフ・アロン「誤審」「不可解判定」「AI審判」「やらせ疑惑」をとことん語る

  3. 3

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  4. 4

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  5. 5

    吉永小百合(10)「15歳年上のバツイチと、よく一緒になりましたね」会員限定記事

  1. 6

    「建築界のノーベル賞」受賞の権威が大阪万博をバッサリ!“350億円リング”「犯罪だと思う」

  2. 7

    渡部建はキスなし即ベッド“超自己中SEX” 元カノ女優が激白

  3. 8

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  4. 9

    柔道ウルフ・アロンが“弟分”斉藤立を語る「仏リネール選手はタツルに持たれることを恐れていた」

  5. 10

    石川佳純の争奪戦からフジテレビが脱落情報!五輪キャスター起用でアドバンテージあるはずが…