「佐々井秀嶺、インドに笑う」白石あづさ著
ほとんどの人がヒンズー教徒であるインドで、いま爆発的な仏教ブームが起きている。半世紀前には数十万人しかいなかった信者が、今や1億5000万人超。現在その中心にいるのが、1967年にインドに渡った日本人僧侶・佐々井秀嶺氏だ。
本書は、そんな佐々井氏の正体を探るべく、海外ルポに定評のある著者が5年かけて取材した密着同行記。その生い立ちからインドでカリスマになるまでの日々と、次から次へと事件が巻き起こる佐々井氏の日常を追っていく。
彼が仏門に入ったきっかけは、女への執着心。女狂いの血が自分に流れていることに絶望して自殺未遂を繰り返した末、行き倒れになりかけた佐々井氏を救ったのが真言宗の和尚だった。懸命に修行する姿を認められ、大学へ。そしてタイへの留学を経て帰国しようと思っていたが、インド行きを思い立つ。そこで龍樹と名乗る老人に夢枕に立たれたことを契機にインド南方へとたどり着き、瀕死寸前の仏教を復興させたというのだ。
著者の長期にわたる体当たり取材によって、道なき道を爆走する僧侶の普段着の姿が浮かび上がってくる。
(文藝春秋 1750円+税)