「境界の日本史」森先一貴、近江俊秀著
西日本と東日本の文化的な差違は、現在でもよく取り上げられる。食べ物でいえば、西は青ネギ・東は白ネギ、西は薄口醤油・東は濃い口醤油、西のところてんは黒蜜・東は酢醤油等々、そのほか、西は母系的なムラ社会で、東は家父長的なイエ社会という民俗学の面からの指摘もある。これらは、日本列島に住む人々の文化や生活様式が決して一元的なものではないことを示している。では、西と東の境界はどこにあるのか。また、あるとしたら、それはいつできたのか。あるいは東西以外にも境界はあるのか。それらの疑問に答えてくれるのが本書である。
日本列島に現生人類が住み始めたのは、およそ4万年前。そして約3万年前に南九州の姶良カルデラ(現在の鹿児島湾)で巨大噴火が起こり、それを境に列島の環境は大きく変化したとされる。著者たちは、こうした環境の変化と石器などの遺物を手掛かりに、旧石器時代から古墳時代に至る列島の文化の推移を丁寧に跡づけていく。
そこで明らかにされるのは、旧石器時代に形成された5つの境界(北海道、本州東部、本州西部と九州、本州から九州の太平洋沿岸、琉球列島)が、細分化と統合を経ながらも、基本的には、その後も継承されているということだ。大陸から到来した弥生文化も、その境界を軸にして拡散していく。そして、畿内に成立する倭王権が東へと勢力を広げていくときも、この境界が大きく関わっていく。
本書の記述は、鎌倉政権の成立により、西の朝廷、東の幕府という二元的支配の成立にまで及ぶが、境界という視点から新たな歴史像を見せてくれる。テレビのお笑い番組を見ながら、西と東のお笑いの違いの背景には何万年という悠久の歴史があると思うと、なんとも壮大な気分になるだろう。 <狸>
(朝日新聞出版1600円+税)