飯田哲也(環境エネルギー政策研究所所長)
8月×日 京都アニメーション放火大量殺人事件は、今なお痛ましさが生々しい。その犯人を「下級国民のテロリズム」と断じた橘玲は、近著「上級国民/下級国民」(小学館 820円+税)の中で、日本や世界で進む知識社会化・リベラル化・グローバル化がもたらした上級/下級の分断の構図を描き出す。
トランプ大統領の誕生や英国のEU離脱(ブレグジット)もフランスの黄色いベスト運動も、「下級国民による知識社会への抵抗運動」と断じる。先の参院選で注目を集めたれいわ新選組や泡沫と思われたNHKから国民を守る党が議席を得たのも、同じ構図かもしれない。
下級国民の中核をなす非正規がどこから生まれたのか。小熊英二著「日本社会のしくみ 」(講談社 1300円+税)は、明治時代に遡って解き明かす。日本は、大企業型、地元型、残余型に3分され、かつては地元やイエに吸収されていた残余型が都会に流れ出て非正規となった。自営業者が減って非正規が増えたとする橘の分析と重なる。
そこに覆い被さるように、人工知能を筆頭とする情報通信デジタル技術、太陽光や風力という電力エネルギー、そして電気自動車・自動運転・シェアリングが統合されたモビリティという3つの領域で世界史的な大変革が進んでいる。世界中で産業・経済・社会を根こそぎひっくり返しつつあるこれらの大変革に対しても、日本は背を向け取り残されていると金子勝著「平成経済 衰退の本質」(岩波書店 820円+税)は突きつける。
日本の大企業は、高度な知識よりも東大卒などの学歴を重視するため、世界の流れとは逆に大学院卒が減りつつあると小熊は指摘する。金子の「失われた30年」と重ねると、日本の大企業や上級国民はグローバル知識社会からズリ滑り、国が丸ごと「下級国家」へと没落しつつあるのではないか。
燃えさかる日韓問題のウラには、そうした日本の苛立ちと焦りが透けて見える。