萩原浩(作家)
7月×日 どうやら梅雨が開けて、さあ夏です。
夏の私は忙しい。仕事がなくても忙しい。自宅のささやかな庭で野菜を育てているからだ。スイカとメロンの人工受粉。キュウリとナスとゴーヤとインゲンマメの収穫、追肥。トマトの芽かき。雨の季節にはサボれてた水やりもしなくては。
野菜づくりは難しい。何年やっても素人で、失敗の連続だ。栽培方法に関する本や雑誌はたくさん揃えているのに――。
揃えすぎかもしれない。情報が多すぎて、わけがわからなくなっている気がしないでもない。
だからここ1、2年は1冊に絞って、その情報だけを信じてやっている。その名も「失敗しない野菜栽培」(サカタのタネ 300円)。略して「失敗野培」。ホームセンターに置かれていたちいさな小冊子だ。この薄い1冊に、今年の我が菜園の豊凶がかかっている。頼むぞ、失敗野培。
7月×日 やけに涼しく始まった夏だけれど、やっぱり暑くなってきた。角幡唯介著「極夜行前」(文藝春秋 1750円+税)は寝苦しい夜が涼しくなるノンフィクションだ。
太陽が1日中昇らない真冬の北極圏探検を記録した前作「極夜行」の続編、というか、探検前の予行や備蓄拠点を設営する事前旅行をつづったエピソード0。本番前の旅なのに、氷点下30度、40度は当たり前。涼しいというより寒くなる。
7月×日 暑い夜にはビールとホラー。
夏こそホラー!
なあんて書いてみたが、嘘です。本当は怖がりなのでホラーは苦手だ。小説も夜は怖くて読めない。
でも、宮部みゆきの時代ホラーは別。このところずっと夜の読書タイムでお世話になっている。
怖くないわけじゃないが、怖さに品があるというか、安っぽいこけおどしがない。お化けより人間の心の恐ろしさに震える作品が多いから、夜も安心。臆病者に優しい。
名作「三島屋シリーズ」をはじめあらかたは読み終えて、いま読んでいるのは「荒神」(新潮社 940円+税)だ。江戸時代を舞台にしながら現代を描いているんだろうな。