朱野帰子(作家)

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6月×日 私の小説が原作のテレビドラマ「わたし、定時で帰ります。」がニューヨークタイムズ紙で紹介された。記事のコメント欄には日本の長時間労働の実態への驚きがつづられていた。一方で、「アメリカにだって同じことは起きている」というコメントもあった。

 この日、私が読んだのはジェームズ・ブラッドワース著「アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した」(濱野大道訳 光文社 1800円+税)である。英国人ジャーナリストが、アマゾンの倉庫、訪問介護、コールセンター、ウーバーのタクシーなど“最底辺”と呼ばれる職場に就き、その体験を書いたものだ。

 デジタルで監視される労働者。生活費より低い賃金。大学を出ても就職できない若者たち。変化を嫌う年金生活者。思考を停止させる職場ポエム。給料の代わりに与えられる社内レク。労働者を個人事業主として扱う企業。遠い国の話とは思えない。これは日本でも起きている話だ。明日は職がないかもしれないという恐怖は、外国人労働者を排除したいという思いへと繋がっていく。

 アマゾンの倉庫で精神の限界まで梱包する人たちを、著者は聖人として描かない。なぜ彼らがその職場へたどり着かなければならなかったのか、ファクトのみを突きつけてくる。トイレに行くだけで生産性を損なったとされ、罰せられる労働者を作りだすのは、配送無料を求める消費者の存在だ。私もこの本をアマゾンで買った。17人のレビューがついており、いずれも高評価だった。

7月×日 ファミレスで朝食をとりながら、藤井太洋著「東京の子」(KADOKAWA 1600円+税)を読む。オリンピックが終わり、外国人労働者たちが風景に馴染んでいるはずの2023年の日本が舞台。主人公は無責任な親のせいで、正規の国民として生きられない。彼の周りには終身雇用制に守られなくなった若者たちもいる。しかし、彼らは外国人労働者を排除しない。共に手を繋ぎ、自分たちから搾取しようとする者たちと戦おうとする。自分のことだけ考えていては幸せになれない。そんな時代が来ているのだと感じる。

【連載】週間読書日記

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