柚木麻子(作家)
9月×日 「田辺聖子さん お別れの会」に。展示してある田辺さんの写真を眺めて、直木賞選考会でも男性陣の中でポンと一人赤いセーター姿でいらっしゃるような、そのビビッドなお洒落に感動する。手をとりあって一列に並ぶ女の人がモチーフになったものすごく可愛らしいセーターを着ていらっしゃって、欲しくて仕方がない。
9月×日 鉄道好きの夫に付き合い大阪に。「大阪梅田駅」へと名前が変わってしまう最後の阪急「梅田駅」を見納めしようという趣向である。阪急電車に揺られていたら、車窓からとんでもなく可愛い看板を見つけて興奮し、長岡天神で途中下車。「喫茶フルール」というシャンデリアと鯉の泳ぐ池のある喫茶店である。 こういうお店を見るたびに、すぐにでもLINEを送りたくなるのが、ロマンチックな独自の視点を持つ、甲斐みのりさんである。新刊「一泊二日 観光ホテル旅案内」(京阪神エルマガジン社 1600円+税)も、確かに日本のホテルのはずなのに、どこの国でもない、ときめきの世界に見えたものだ。
10月×日 11月5日に発売予定の、山内マリコさんと一緒に責任編集を務めるエトセトラブックス刊行マガジン「エトセトラ」VOL・2の「We ♥ Love 田嶋陽子!」。いよいよ編集作業も大詰め。忙しいけれど、依頼させていただいた執筆陣の一人の伊藤春奈さんの新刊「『姐御』の文化史」(DU BOOKS 2200円+税)に夢中だ。
ハリウッド映画のような女ヒーローが、実は日本にも江戸時代から、フィクションと現実両方に存在してたという、丁寧な検証に引き込まれる1冊。ホモソーシャルそのもののような幕末モノ、任侠映画や時代劇にも、女性をエンパワメントする要素がある、という伊藤さんの見方に世界が広がる。いなせな姐御がスカッとした啖呵を切る姿はみんな大好きなものだけれど、誰しもそこに抑圧に負けない勇気を感じ取っているからこそ、人気なのだな、とわかる。田嶋さんの功績も重なる気がする。