大竹昭子(作家)
10月×日 姪が台湾に留学していたときの友人が日本にやってきた。色白の涼しい目をした女の子で、いまの日本にはこういう子はいないなあ、と思いながら、どんなとこに行きたいの? と訊くと、リストを取りだして見せた。やたらに神社の名前が多い。思わず、若いのに神社? と怪訝な顔をすると、「だってパワースポットでしょ」と姪が当然という表情で答えた。
まあ、神社の多くは小高い場所にあって気持ちがいいから、パワースポットにはちがいない。でも、わざわざそう呼んで巡って歩くことが海外にまで広まっているとは、正直驚いた。
いったいこれはどういうことか、と腕組みして考えていたところ、最適な本「パワースポットはここですね」(新潮社 1500円+税)が出た。私は本を著者で選ぶ。とりわけ、「パワースポット」のようないかがわしいテーマでは、だれが書いたかが肝心。でも高橋秀実氏の本ならまちがいない。ご先祖様、ラジオ体操、定年、とこれまでも何を取上げようが起源に遡って丁寧にときほぐし、かつ笑わせてくれた。
各地の「パワースポット」と言われるところを、高橋氏は訪ねてまわる。ところが、出かけて行ってもとりたてて何も感じないし、まわりの人に尋ねても、感じない、と首を振る。でも、みんなうれしそうではある。
本書のツボはここだ。感じないのに行き、パワーを得て帰ってくる。つまりパワーがあるから、「パワースポット」なのではなくて、「パワースポット」に行くがゆえに、パワーがもらえるのだ。
えっ、どういうこと? いや、そうなのだ。「ある」はずのものを探し出すのではなく、「ここ」と思う場所にパワーが湧く。さらに言うなら、「『ここ』と声に出したとき、身に起こる変化」こそがパワーの源なのだと著者は説く。深くうなずかせる言葉ではないか。
つまり、パワーを求める心がパワーを生みだすのであり、だからひとりでいくより、何人かで行ってパワーへの思いを高めたほうが効果的というわけだ。きっと姪たちも「ここ! ここ!」と叫びながら、パワーをもらって帰ってくることだろう。