「さんかく」千早茜著
東京のデザイン事務所に勤めていたデザイナーの高村夕香は、1年前に会社を辞めて美大時代の友人がいる京都に戻り、町家で一人暮らしを始めた。毎朝自分好みに握った塩むすびにぱくつきながら仕事をするのが日課になっていたが、以前カフェでバイトをしていたときに知り合った「伊東くん」という年下の営業マンと再会し、食事をするうちに食の趣味が合うことに気づく。
互いのプライバシーには踏みこまず、程よい距離感で時々会ってはお互いの好物を一緒に食べていたのだが、彼とルームシェアをすることになって少しずつバランスが崩れ始める。伊東くんには華という彼女が、夕香には長年関係が切れない本庄という男がいた。食べることでつながっていた2人の関係はどこに向かうのか……。
第21回小説すばる新人賞を受賞した「魚神」でデビューし、同作で第37回泉鏡花文学賞を受賞、その後「あとかた」「ガーデン」など次々に話題作を発表している著者の最新作。人それぞれの価値観や暮らしへの向き合い方が表れる「食べる」という行為に焦点をあて、人間関係の不思議さをさらりと描いている。
(祥伝社 1500円+税)