ネットは偏るのか
「ネットは社会を分断しない」田中辰雄、浜屋敏著
ネット時代の初期にはこんな分断など想像もできなかった、と嘆く高齢者は多い。しかし本当にネットは偏向するのか?
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本書の題名は単なる“ネット楽観論”ではない。「分断」はネガティブな言葉だが、同じことを政治学では「分極化」という。
学問的にみれば、政治的な意見がある程度分極化するのは、社会的には許容範囲とされる。つまり分極化に良い悪いはない。
しかし分断は明らかに悪いことを意味し、「トランプ米大統領のツイートは社会を分断させる」という。だが、トランプ登場の前からアメリカでは分極化が進行しており、彼の登場が分断をもたらしたというより、分極化の結果がトランプ登場になったと見たほうがいい。
本書はこのように、学問的な立場から現状を観察し、ネット上の投稿のおよそ半分がわずか0・23%の人によるものだ、といった事実を明らかにする。ネット(SNS)、新聞、テレビと各種のメディアへの接し方と分極化に関係があるかどうかの調査結果も面白い。ネットを使うユーザーほど分極化の傾向が強く、従来のメディアの代表格にあたる新聞には意見を極端化させるほどの影響が見られない。そしてテレビはむしろ穏健化するのだという。計量経済学者とシンクタンクのアナリストが組んだ本書は、見た目以上の役立ち本だ。
(KADOKAWA 860円+税)
「ネット右派の歴史社会学」伊藤昌亮著
ソフトバンクのメディアコンテンツ部門に勤務しながら東大の大学院生でもあったというユニークな著者。
大学教授になったいまも「ネトウヨ」系学生の心情に内在的に迫ろうとする。「ネット右翼」でも「ネトウヨ」でもなく「ネット右派」という書名のことばもその表れだろう。
「アンダーグラウンド平成史1990―2000年代」との副題を持つ本書によれば、民主党政権時代に盛り上がったネット右派言論は、安倍政権になってからは「当面の敵」を失って沈滞ぎみだという。「反対のための反対」が特徴というわけだ。
(青弓社 3000円+税)
「ニュースで読み解くネット社会の歩き方」塚越健司著
著者は1984年生まれの情報社会学者。若者とは呼べないまでも「デジタルネーティブ」といわれる若者たちの行動や気持ちを理解しやすい立場にある。
一見、SNSなどネット社会の雑多な現象や仕組みの概説書に見えるものの、本書は、角度を変えた物の見方をさりげなく提示する。
ネット時代になって新聞や雑誌は落ち目といわれるが、雑誌はもともと「雑多であるがゆえに、読もうと思っていたコンテンツ以外のものに偶然出合う機会を提供していた」。
ならばネットのおススメ機能は「予期せぬ出合い」を効率的に提供する機会にもなり得る。
ネット時代の常識を身に付けるのに役立つ。
(出版芸術社 1600円+税)