依存する人々
「痴漢外来」原田隆之著
ストレスの多い現代、薬物依存とならんで急増しているのが「性依存」だ。
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ドキッとするタイトルだ。もちろんこんな名前の診療科は存在しない。著者は臨床心理学、犯罪心理学の専門家で筑波大教授。かつ都内の精神科病院にも勤務している。当初は薬物やアルコール依存の治療が専門だったが、10年ほど前から痴漢などの性犯罪や性的問題行動をやめられない人々に向き合ってきた。著者はこれを「治療」とカッコ付きで呼ぶ。
性犯罪は犯罪だが、刑罰だけでは再犯防止効果は期待できない。
犯罪者は社会規範を軽視したり、自分に都合よく解釈する「認知のゆがみ」(反社会的認知)を持っている。このゆがみを修正することで再犯は半分から3分の2ぐらいに抑制できるという。
依存症関連書にありがちな情緒的な「人間ドラマ」的な事例紹介が少ないのが本書の特徴。
「痴漢外来」とは「性犯罪と闘う科学」なのだと胸を張るところが強い意志を感じさせる。
(筑摩書房 880円+税)
「やめられない人々」榎本稔著
痴漢、盗撮、小児性愛、ストーカー……。共通点はいずれも「やめられない」こと。もうひとつが「行為への依存」であることだ。アルコールや薬物などが「もの」への依存で、最後は自滅に至るのに対して、性依存は被害者への犯罪に至る。
著者は都内で6つのメンタルクリニックを経営する精神科医。高度成長期にはアルコール、ギャンブル、薬物依存が急増したが、現代では「万引依存」が高齢者に、「ネット依存」が若者に、そして「性依存」が世代を問わずこの10年余で急増したという。
豊富な経験を持つベテランが多数の事例を紹介する。
(現代書林 1400円+税)
「クレプトマニア・万引き嗜癖からの回復」テレンス・ダリル・シュルマン著 松本かおり、廣澤徹訳
著者は米デトロイトの弁護士でセラピスト、そして「回復中の病的窃盗者」。つまり自分自身も万引依存の人物が、病気と闘いながら、依存に苦しむ他の人々のサポートに乗り出しているというわけだ。
著者は小3ぐらいで母におもちゃを買ってもらえずかんしゃくを起こしたことをずっと記憶しており、それがきっかけで11歳ごろから万引を始めたという。無意識だったが、転居で友だちがいなくなり、孤独のなかで安心を得る手段が万引になったのだ。
他のケースでも、ささいなことが積み重なって深い依存に至ることが多い。依存症とは、いわば自己啓発が逆転したようなものなのかもしれない。
(星和書店 2500円+税)