「銀幕ミステリー倶楽部」新保博久編
夕食の席で、夫の卓蔵が関西へ出張があることを告げるが、折江はいつものように同行すると言い出せない。約1年前、折江は前妻を亡くした卓蔵と結婚。結婚当初は、前妻を思って憂鬱な表情を浮かべることが多かった卓蔵だが、快活な折江に影響され、今では自他ともに認めるおしどり夫婦になっていた。しかし、最近、卓蔵の様子がおかしいのだ。異変は、ひと月ほど前、散歩のついでに映画館で「古沼の秘密」という映画を2人で見てからだった。上映中、それまで興味なさそうに見ていた卓蔵が、ある場面で突然、食い入るように画面を凝視し、息遣いまで荒くなっていたのだ。(横溝正史著「あ・てる・てえる・ふいるむ」)
映画を題材にした12短編ミステリーのアンソロジー。
(光文社 1000円+税)