山本幸久(作家)
2月×日 9歳の女の子がボクシングをはじめる小説を書いた。「あたしの拳が吼えるんだ」(中央公論新社 1800円+税)、絶賛発売中です。いきなり自著の宣伝で申し訳ない。この小説を書く際、頭の片隅にあった小説がある。「ノリーのおわらない物語」(白水社 1300円+税)だ。ニコルソン・ベイカーというアメリカの小説家の作品で、やはり9歳の女の子が主人公。主人公の女の子のモデルはベイカーの娘だという。ぼくのほうは、娘がいるものの彼女をモデルにしたわけではない。9歳の女の子にしたのも、学童保育が小学校3年生までで、4年生になったらどうしようというところから、話をはじめたからだ。じつは10年以上前に読んで、自分の小説を書きおえたあとに読み直したのである。よければみなさん、読み比べてみてください。
2月×日 もう1冊、子どもが主人公の小説を読んだ。「エドウィン・マルハウス」(河出書房新社 1500円+税)で、スティーヴン・ミルハウザーという、こちらもアメリカの小説家の作品。30年近く昔に単行本で購入しながら最後まで読み切れず、そのままにしていたのが文庫で復刊、改めて読み直そうとしたら、いつしか3年が経っていた。このままでは一生読まないかもしれないと思い、書店で見つけて購入。なんで20代のぼくは、これを途中でやめたのかわからない。おもしろくてたまらなかった。子どもが友達の伝記をつづるという形式なのだが、子ども同士の心温まる交流ではなく、ウマくいかない切ない感じがたまらなくいい。おススメです。
2月×日 3月発売で楽しみな短編集がある。早瀬耕さんの「彼女の知らない空」(小学館 680円+税)だ。なぜさん付けかといえば一面識もないものの、ツイッターでフォローをしあっており、ときどき「いいね」もいただく。雑誌掲載時にいくつか読んでおり、とてもよかったので、いまから心待ちなのだ。