梶よう子(作家)
2月×日 2月は日数が少ない上に連休があり、小説誌の締め切りが重なるという辛い状況に陥った。そのため読書を楽しむ余裕など1ミリもないのだが、就寝前には必ずなにかしら積読状態にある本を開く。さて、「創られた明治、創られる明治」(岩波書店 2600円+税)を読了する。一昨年、明治150年に際して催されたシンポジウムのもとに、11名の執筆者が各テーマに沿った論考をまとめたものだ。明治は誰によってどう創りあげられたのか。非常に興味深い1冊だった。
2月×日 執筆が続き、仕事場に自主軟禁する。食事もコンビニ。ほとんど他人との会話もなし。時々担当編集者とLINEをし、妙なスタンプを送りつけることで寂しさを紛らわせる。作家の暮らしってこんなものかぁ、と荒んだ気持ちになる。LINEスタンプといえば、今大人気のキャラクターがいる。なんでも肯定してくれるコウテイペンギンの赤ちゃんコウペンちゃんだ。哲学者アランの著書「幸福論」とのコラボ本、「コウペンちゃんとおべんきょうする『幸福論』」(KADOKAWA 1000円+税)を読む。「働くことはもっとも楽しいことであり、またもっともつらいことでもあります」というアランの言葉に、愛らしいコウペンちゃんが「出勤してえらーい」といってくれている。そうだよね、(出勤はしないが)辛いときもあるけれど、好きで選んだ文筆業。楽しくやらねば、と思う。アランの言葉に勇気をもらい、コウペンちゃんに心癒される。すべての働く方々のための処方箋。
3月×日 単行本「三年長屋」(KADOKAWA 1800円+税)が刊行された。そのお祝いと、先月の仕事も終わった開放感もあって、ビールのプルを引く。江戸時代の人々も仕事終わりには居酒屋の縄のれんをくぐった。江戸は男性が圧倒的に多かったので外食産業が盛んだったせいもある。酒にまつわる川柳をまとめた「江戸川柳で読み解くお酒」(山愛書院 1500円+税)をパラパラとめくる。その中から、ひとつ気になったのをご紹介。―水瓶に夜這いにかかるのん太郎―飲み過ぎて、水瓶を女性と間違えるという大失態。水瓶なら笑い話だが、泥酔して満員電車の中で女性に手を伸ばすのは犯罪です。