「探偵は絵にならない」森晶麿著
濱松ハードボイルドだ。この作品が誕生したのは、映画「探偵はBARにいる」のノベライズを担当したことがきっかけだった、と著者はあとがきに書いている。2011年に「黒猫の遊歩あるいは美学講義」で第1回アガサ・クリスティー賞を受賞した森晶麿は、その受賞作をはじめとする「黒猫シリーズ」でお馴染みだが、以前からハードボイルドに興味を持っていたらしい。で、故郷の町を舞台にした本書が生まれることになったのだが、第3話「アムリタ夫人」をとりあえずは読まれたい。
主人公の濱松蒼は、売れない画家で、故郷の町に帰ると、息子の肖像画を描いてくれと知り合いから依頼される。小学生の息子が部屋から出てこないというのだ。蒼の絵を見せたら、この人ならいいと許可が出たという。
というわけで、引きこもりの小学生を訪ねていくのだが、はたして蒼は彼の閉ざされた心を開くことは出来るだろうか――という話で、温かなものがこみ上げてくるラストがうまい。
家を出た同棲相手のフォンを追いかけて、濱松蒼は故郷の町に帰るのだが、友人の蘭都(やくざの父親に反抗して家出中)や、その蘭都をひそかにガードするバロンなど、個性豊かな脇役たちが興趣を盛り上げている。まだ文章の一部に粗さが残ってはいるけれど、このまま書き続ければそれもこなれていくに違いない。気軽に読めるハードボイルドとして楽しみたい。
(早川書房 760円+税)