著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「三年長屋」梶よう子著

公開日: 更新日:

 3年住むと願いがかなうという長屋がある。居職の者なら工房と弟子を抱え、棒手振り稼業なら表店を出し、女子は良縁に恵まれるというところから、ついた名だ。

 その長屋の差配が左平次。差配とは、家主にかわって店賃を集め、店子たちの面倒を見るのが仕事。もっとも大した謝礼は出ないので左平次は楊枝屋を営んでいる。

 この左平次、元は武士。上司の不正を見逃しできず、「これ以上のご奉公、御免被ります。なにとぞご容赦を」と藩邸を出て、すぐさま荷物をまとめて妻子を連れて江戸に出た。乳飲み子を抱えた妻は貧困の中で病に倒れ、一人娘は火事に遭って行方不明。三年長屋の家主お梅に拾われて差配となっている。

「あんたも元は武家だかなんだか知らねえが、その堅ぇ言葉もなんとかならないか」

 と言われたりするほど、なかなか武士の癖が抜けずに困っている。

 長屋の住人たちは余裕のある生活をしているわけではない。かつかつの生活だ。しかし困ったときには助け合うので、なんとか日々が過ぎていく。もちろん喧嘩も浮気もあり、悲喜こもごもだ。特徴は、ひとつの事件が次の人間ドラマを呼ぶように、全7話がうねるようにつながっていくこと。だから休む間もなく、どんどんページをめくっていく。梶よう子は何を書いても水準以上の作品を書くので信頼できるが、庶民の哀感あふれるこの連作は、ぜひシリーズ化していただきたい。

(KADOKAWA 1800円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  2. 2

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  3. 3

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  4. 4

    中居正広氏「性暴力認定」でも擁護するファンの倒錯…「アイドル依存」「推し活」の恐怖

  5. 5

    大河ドラマ「べらぼう」の制作現場に密着したNHK「100カメ」の舞台裏

  1. 6

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  2. 7

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  3. 8

    下半身醜聞ラッシュの最中に山下美夢有が「不可解な国内大会欠場」 …周囲ザワつく噂の真偽

  4. 9

    フジテレビ第三者委の調査報告会見で流れガラリ! 中居正広氏は今や「変態でヤバい奴」呼ばわり

  5. 10

    トランプ関税への無策に「本気の姿勢を見せろ!」高市早苗氏が石破政権に“啖呵”を切った裏事情