「ブラック企業に勤めております。」要はる著
「ブラック企業」という言葉が新語・流行語大賞のトップ10に選ばれたのは2013年。その2年後の15年には「電通過労自殺事件」が起き、過度の長時間労働が大きな社会的問題となった。昨年からは、そうした問題を是正すべく「働き方改革」などが掲げられているが、人と人との関係が深く関わる「働き方」を法律で決めることが可能か。本書を読むと、そんな疑問が湧いてくる。
【あらすじ】短大卒業後、家出同然で上京してイラストレーターを目指した佐倉夏実だが、思ったように芽が出ず25歳を迎えたところで夢を諦め、地元で就職することに。
しかし世の中そう甘くない。面接18社目にしてようやく採用されたのは、本社が神戸にある老舗の広告・印刷会社で全国に50の支店を持つ上場企業。これぞ天の助けと喜んだのも束の間、夏実の勤めるK支店はとんでもない“ブラック”だった。
8時半始業のはずが8時から支店長の朝礼が1時間近く続く。おまけに内容はパワハラ満載の部下への叱責。唯一の女性事務員である夏実に対しては平気でシモネタを振る。タイムカードなし、残業代なし、有休はなかなか取れず、禁煙といいながら社内でたばこを吸いまくっている。
こんな会社辞めてやると思いはするものの、いい加減な社員たちは何かと夏実に頼ってくる。頻発するトラブルに対処していくうちに、夏実は徐々に自分のこの会社での役割を自覚していく……。
【読みどころ】本書に登場するのは、仕事をせずフィリピンパブに通ったり、失敗の責任を取ろうとしないダメ社員ばかり。しかし彼らを良き反面教師として、夏実は働くことの意味を見いだしていく。すると、ブラックだったはずの会社がいつの間にかホワイトへ変貌するのだ。 <石>
(集英社 550円+税)