「神戸栄町アンティーク堂の修理屋さん」竹村優希著
骨董屋、アンティークショップにとって何より必要なのは目利きと商品知識だ。骨董品や古美術品の真贋をめぐる話は小説でもよく取り上げられる。ところが、本書の舞台であるアンティークショップはそうしたものとはほとんど無縁だ。なにしろ主人公の店主が骨董品を「ガラクタ」といってはばからないのだから。
【あらすじ】高橋寛人が13歳のときに両親が離婚し、母方に引き取られた。そのため、何かとかわいがってもらった父方の祖父・斉藤万とは他人となってしまった。しかし、万は以降も寛人を友人として親身に付き合ってくれた。
その万から、彼が神戸・三宮で経営していたアンティークショップを譲り渡したいと言ってきた。23歳になった寛人は大手広告代理店に勤めだしたばかりで大いに迷った末、万の頼みを受け入れる。その返事を待っていたかのように万は死んでしまった。約束通り、店を引き継ぐことにしたものの骨董にまったく興味のない寛人はどうしていいかわからない。
そんな彼を助けてくれたのが店の一角で修理屋を営んでいる後野茉莉だ。寛人より4、5歳上のすてきな女性だ。店は万が完全な趣味で集めた雑多な物であふれ、客もほとんど来ない。来るのは茉莉に修理を頼みに来る人だけだ。
ということで、アンティークショップとは名ばかりの店で、寛人は茉莉の修理屋を手伝うことに。最初は万の集めた物たちをバカにしていた寛人だが、茉莉の古い物をいとおしむ態度に接しているうちに、徐々に万がなぜこの店を自分に託したのかを知るようになる……。
【読みどころ】古いビデオデッキ、ヒビの入ったバイオリン、重たくて動かしにくい車椅子――それらの物たちが囁く声からさまざまな思い出が蘇り、物語が生まれてくる。 <石>
(双葉社 639円+税)