「上流階級 富久丸百貨店外商部」高殿円著
百貨店において、売り場以外で販売する部門を外商部といい、年間売り上げのかなりの割合を占めている。この外商部における顧客は法人と個人があるが、個人の場合はほとんどが富裕層で、主に呉服、宝飾品、美術品の「ごほうび」を中心に、年間に高額な商品を購買する上流階級層だ。
そんな雲の上の住人たちのベールに包まれた世界が描かれている。
【あらすじ】鮫島静緒は地元兵庫の洋菓子店に就職し、クリームクロワッサンの販促に力を発揮し、そのセンスを見込まれて、神戸の老舗、富久丸百貨店にスカウトされる。そこでも新企画を成功させ、新たに外商部の初の女性外商員に抜擢される。
ノルマは月に1500万円、何より必要なのは「太い」セレブな顧客だ。富久丸のカリスマ外商員の葉鳥のアドバイスで、自らも高級住宅地・芦屋に住まいを借りた静緒は勇躍、上流階級の世界へ乗り込んでいく。
早速タイ人の会社経営者夫人から、孫のクリスマスプレゼントに仮面ライダーのベルトが欲しいという電話が入る。しかし、大の人気商品でどこにも在庫がない。かと思えば、クリスマスが誕生日の孫のために日本有数のパティシエにオリジナルケーキを作って欲しいというリクエストも舞い込む。一年で最も忙しい時期にそんな注文ができるはずがない。とはいえ、どんな無理な注文でも大事な顧客のためになんとかするのが外商員。静緒は手を尽くしてこの難題に挑んでいく……。
【読みどころ】富裕層を相手に仕事をしていく外商員の心得や、何百万、何千万もする時計や宝石をためらいもなくポンと買い、お産から葬儀まですべて外商部に面倒を見させる上流階級の生態など、外からは見えない興味深い世界が描かれている。 <石>
(小学館 850円+税)