「ショートショートの宝箱Ⅳ」光文社文庫編集部編
「僕」は、わらにもすがる思いで知人に紹介された香水店を訪ね、迎えてくれた調香師の葉山に、父の匂いをつくって欲しいと依頼する。
なぜか僕の頭から1カ月前に死んだ父親の記憶だけが消えてしまったのだ。SNSの書き込みを見ると、死ぬまでは普通に父を父として認識していたようだが、今は何も思い出せない。唯一、告別式のときに撮影された棺に入った父の写真を見ると、かすかな匂いが立ち上がってくる。その父の匂いを再現して嗅げば何かを思い出せそうな気がする。葉山によると僕が写真を見て感じる匂いは「幻臭=まどかぐわ」だという。(ピーター・モリソン著「まどかぐわ」)
独創的な設定や鮮やかな結末など、奇想に満ちた掌編30作を収録。
(光文社 640円+税)