「大江戸火龍改」夢枕獏著
夢枕獏は、その作品の多くが長大なシリーズもので、しかも多くが続刊中。「陰陽師」のように、長大なシリーズものでも単発作品として読むことのできる作品もあるけれど、続きものは完結してから読みたいと思う読者にとっては、これでは興味はあっても手にする勇気がなかなか出てこない。
しかし時折、単発作品を書くこともあり、近年では机竜之助が活躍する「ヤマンタカ大菩薩峠血風録」が印象に残っているが、そのライン上のもっとも新しい作品が本書。単発作品なので、夢枕獏の作品を読んだことのない読者も安心して手に取られたい。
江戸時代に、凶悪犯を取り締まる火付盗賊改の裏組織が存在した、というのである。それが、火龍改だ。この人の世には、人ならぬものが人のふりをして住んでいて、時に人に害をなす。そのような化け物、妖物、龍を捜し出し、人知れず始末をするのが、その火龍改の仕事である、というのだ。こういう楽しい「嘘」を語らせると、夢枕獏は天才的にうまい。いかにもそんなことがありそうな気がしてくる。構成もいい。最初に短い話が3つ、続くのである。
火龍改の相談役と噂されている遊斎を主人公に、不思議な話が次々に語られていく。そして読者の体を温めてから、長編がスタートする。大店を舞台にした怪奇な事件を、平賀源内などの力を借りながら解決していくのだ。夢枕獏の名人芸をたっぷりと堪能されたい。
(講談社 1600円+税)