「真夜中のすべての光」(上・下)富良野馨著
本書は、「講談社NOVEL DAYS リデビュー小説賞」の受賞作だが、困ったな、詳しい内容紹介が出来ない。
なぜなら、えーっ、こうなるのかよ、ホントかよ、と何度も驚きながら読んだのである。次々に作者が繰り出してくるアイデアを、ひらたく言えば展開の妙を、ぞくぞくしながら味わったのである。それを全部、明かしてしまっては、これから読む方の読書の興をそいでしまうだろう。
だからここでは、主人公の彰が最愛の妻皐月を亡くしたこと、その失意に耐えかねて仮想都市パンドラに入っていく物語である、とだけ書くにとどめておく。
こういう紹介をすると、さてはその仮想都市で亡くなった妻と再会する話だな、と早とちりする方がいるかもしれない。それで傷ついた心が癒やされて、しかしその仮想都市に永遠にいることは出来ないわけだから、また現実に戻ってくる話なのだ、と思われる方もいるかもしれない。つまり、癒やしと再生の物語であると。
ご安心を。そういう話ではありません。いやたしかに、癒やしと再生の物語ではあるのだ。しかし、そういう話ではない。その微妙なラインの一点に、本書の独自性がある。
テーマは、こころとは何か。感情とは何か。生きていく上で大切なこととは何か――なのだ。つまりは、私たちは何者なのか、ということだ。次作を早く読みたい。
(講談社 各750円+税)