「法廷遊戯」五十嵐律人著
すごいな、一気読みだ。
何よりも素晴らしいのは、新鮮であることだ。どこかで読んだことのあるような、という既視感がまったくない。生まれて初めて読む小説であるかのように、初々しく、真摯で、読むことの喜びにあふれている。
妙な言い方になるが、法廷ミステリーを読んでいるような気がしないのである。それは、それ以外の要素がどんどん入りこんでくるからだ。児童養護施設で育った時代の回想があり、痴漢詐欺未遂の女子高生を見つける話があり、学生時代の模擬裁判があり、墓荒らしの老人や盗聴器を仕掛ける男までもが登場する。盛りだくさんだ。それらが混然一体となって立ち上がってくる。
胸をナイフで刺されて死んでいる男がいる。ブラウス、スカート、両手を赤く染めて、すぐそばに立っている女がいる。それが第1部の終わり。全体の3分の1のところだ。
ここから始まるスリリングな展開に注目。中心にあるのは、いったい何が起きたのかということだ。その見せ方が、つまりは構成が群を抜いて秀逸なので、ぐんぐん引き込まれていく。
作者は本書でメフィスト賞を受賞してデビュー。本当にこれがデビュー作なのか。とても新人の第1作とは思えないほど躍動感に富んでいる。テーマは、法とは何か、罪とは何か、だ。その中心軸に向かってどんどん進んでいくダイナミズムが素晴らしい。
(講談社 1600円+税)