「今ひとたびの高見順」山田邦紀著
戦争へと突き進んだ昭和の時代に、作家として生きた高見順。満州事変、二・二六事件、太平洋戦争など、彼の人生を揺さぶった出来事とその時代に描かれた作品を追うと、戦前・戦中の日本の社会が見えてくる。特定秘密保護法が施行され、きな臭さが立ち込めている今こそ、高見順を振り返る必要があるのではないか。
本書は、そうした問題意識をもとに、昭和の証言者としての高見順の生涯と作品をたどったものだ。
例えばプロレタリア文学に邁進(まいしん)していた時期、治安維持法違反により検挙され拷問の末に転向を余儀なくされた経緯や、思想犯保護観察法によって終戦まで公権力の監視下にあった状況などが描かれている。また、サンデー毎日の編集長が陸軍に出頭を命じられ、以来、表紙絵や写真が急速に「時局に合ったもの」に変化したことなども紹介。多くの人々がまさに高見順の代表作「いやな感じ」さながらに、自由意思をねじ曲げられ、戦争協力に傾いていった様子が克明にわかる。
彼の作品から立ち上る昭和戦前戦中のファシズムの空気と、今の日本の雰囲気の相似ぶりに驚愕(きょうがく)させられる。
(現代書館 2600円+税)