「希望の峰 マカルー西壁」笹本稜平著
ローツェ冬季単独初登頂、K2冬季単独登頂を成功させ一躍、世界のトップクライマーの仲間入りした奈良原和志は、4月下旬、来冬に挑戦することになる未踏のビッグウオールことマカルー西壁の偵察に訪れていた。
エベレストの南東19キロに位置して、標高8463メートルを誇る高峰――。垂直というより巨人の額のように大きくせり出した西壁に和志は死の恐怖を覚え、決意が鈍る。
そんな中、マカルーの西稜8000メートル付近で岩雪崩が起き、登攀(とうはん)中のイタリア隊が巻き込まれる事故が発生。救難要請に応えたフランス隊の2人とともに遭難地点に向かい、唯一の生存者ミゲロを救出したことで、世界中が和志の動向に注目するように。
一方で和志を敵対視するフランス人のマルクは、ネパール政府を抱き込み、単独登山禁止を策略する。がんで余命わずかな登山の師・磯村に成功を届けたいが、果たして――。
「ソロ」「K2」など著者の人気山岳小説シリーズの完結編。登山を巡る利権、クライマーたちの駆け引きもさることながら、圧巻は岩壁登攀のシーン。薄くなる酸素、落石、氷雪壁に向かう孤高のクライマーの姿を描く。
(祥伝社 1800円+税)