「慶喜と隆盛」福井孝典著
安政4年、西郷吉之助(隆盛)は13代将軍家定に年賀の挨拶をするために各地から訪れた大名や役人たちの中に現れた越前福井藩士・橋本左内に、ある会合に来るよう声をかけた。集まったのは、肥後の横井小楠、水戸の平岡円四郎、そして徳川慶喜。長い鎖国時代を揺るがす国際情勢のなか、次期征夷大将軍にぜひ優秀な慶喜を担ぎたいという思いのもとに集まった一橋派の面々だ。
当の慶喜はそれを望んでいないものの、西郷は慶喜こそ将軍職に就くべきだと主張する。しかしその後、南紀派の井伊直弼が大老となり、朝廷を無視して日米修好通商条約に調印。さらに将軍家定が次期将軍を慶福(家茂)にすると発表してしまう。西郷の主君・島津斉彬が上洛を画策するが突然急死し、西郷は流刑、左内と吉田松陰が処刑、慶喜は登城停止の憂き目に遭う。多くの処分者を出した安政の大獄によって、西郷の願いはついえたかに思えたのだが……。
安政の大獄から明治へと激変していく武士の時代の終焉を描いた歴史小説。フランスやイギリスの動きなども加え、薩長史観とは一線を画す多角的な視点が興味深い。
(作品社 1400円+税)