「農ガール、農ライフ」垣谷美雨著
農業就業人口は減少の一途をたどっているが、農業で起業する新規参入者だけは2008年の860人から17年の2710人と増えている。それでも自然を相手に、古くからの土地に個人が新たに参入するのはそう簡単ではなく、多くの困難が控えている。本書はそうした困難にめげずに果敢に立ち向かう女性の姿が描かれている。
【あらすじ】水沢久美子は32歳。大学卒業後中堅の住宅メーカーに就職したが、27歳のときに会社が倒産。同棲していた修から結婚しようといわれたが、職を失ったから結婚に逃げるなんて恥ずべき考えだと思い即座に断る。その後、派遣社員として働いていたが、勤め先から契約切りに遭ってしまう。傷心の思いで修に告げると、慰めの言葉どころか、結婚する相手ができたので今住んでいるマンションから出ていってほしいと言われてしまう。
唖然とする久美子の目に入ってきたのが、「農業女子特集」というテレビ番組だった。自分の進むべき道はこれだと直感した久美子は、農業支援のある地方の農業大学へ入学することに。半年の講義を終え、いざ夢の農業ライフをと思ったが、肝心の耕作地を貸してもらえない。周囲には休耕地も多いのだが、どの農家もよそ者には先祖伝来の大事な土地を貸せないという。しかも独身で女性というのが大きなハンディだということも突きつけられる。同じ問題を抱える農業志望の女性には、農家の嫁になるという道を選ぶ者もいるが、久美子はなんとか初志貫徹すべく……。
【読みどころ】久美子の真っすぐな心は将来に不安を覚える人を元気づけてくれるに違いない。また農作業の具体的な段取りもしっかり書かれていて、農業を目指す人の良き指南書にもなっている。 <石>
(祥伝社 690円+税)