「ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで」真梨幸子著
本書の舞台は百貨店の外商部。「外商というのは……お客さまのためならなんでもする。それがどんなむちゃ振りでも、『できない』『無理です』とは言わない」のが信条という、まさに「お客さまは神様です」を地で行く、百貨店外商の仕事ぶりが面白おかしく描かれる。
【あらすじ】越野由佳子は大学卒業以来、就職することもなく、人との関わり合いも極力避け、家の中で息を潜めて生きてきた36歳。しかし母親からいい加減に現実を直視しろといわれ、やむなく紹介所を通して万両百貨店の食品売り場にマネキン(販売スタッフ)として派遣された。
ところが、アルバイトを含めて働いた経験が皆無の由佳子はやることなすことドジばかり。そんな折、店内にある噂が流れていた。外商の中でもトップクラスのお得意のお嬢さまが、社会経験の一環として食品売り場で働いているらしい、と。この噂を耳にした外商部の根津剛平は、もしその“おひいさま”に近づくことができれば上得意を獲得できる、由佳子こそおひいさまに違いないと盛んに粉をかけ始めるのだが……。(「トイチ」)
外商部セールスのトップを独走する大塚佐恵子のところに昔馴染みの得意から「あの子を殺してしまった」と電話がかかってきた。駆けつけた彼女は、これは1人では手に負えないと後輩を呼び出す。後輩が見たのは部屋中に散乱する細切れにされたマネキン人形……。(「コドク」)
【読みどころ】全8話、超希少な犬を手に入れてほしい、引っ越し先で愛人と妻が鉢合わせしそうなので、妻に別のマンションを勧めてほしいといったむちゃ振りが登場。「無理です」と言わない外商員はこれらにどう対応するのか。どんでん返し満載、イヤミス風味のお仕事小説。 <石>
(幻冬舎670円+税)