「カフェ・シェヘラザード」アーノルド・ゼイブル著 菅野賢治訳

公開日: 更新日:

 オーストラリア・メルボルンの南郊にあるカフェ、シェヘラザードには、夜な夜な「生存者」たちが訪れる。カフェを営むのは、第2次世界大戦でナチス・ドイツにポーランドを追われたユダヤ人のゼイブルとマーシャの夫婦だ。<ぼく>は店に集まるそんな彼らの話を聞くため、カフェに足を運ぶ。

 客の一人、ザルマンは、1939年、ワルシャワが爆撃されたことを機に、隣国リトアニアに避難した。そこでソビエト連邦支配下から出る手段、日本をトランジットしてビザ不要のキュラソーに出る――を知る。

 世界中の領事が沈黙する中、日本領事代理の杉原千畝は志願者にスタンプを押し続け、ザルマンはその幸運にあずかって、敦賀、神戸へ流れ着く。しかし、同盟国ドイツから日本に圧力がかかり、ザルマンら難民は再び海に出る。実在したカフェを舞台に、ホロコーストを逃れたオーナー夫婦や客たちの戦争にまつわる回想をつづった小説。ザルマンらの物語に伴走させて、同時期にシベリアでの過酷な労働、カザフスタンで戦争期をやり過ごした人たちなど「複数同時配信」的に語られる物語は、リアルで映像が目に浮かぶようだ。

(共和国 3200円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…