「カフェ・シェヘラザード」アーノルド・ゼイブル著 菅野賢治訳
オーストラリア・メルボルンの南郊にあるカフェ、シェヘラザードには、夜な夜な「生存者」たちが訪れる。カフェを営むのは、第2次世界大戦でナチス・ドイツにポーランドを追われたユダヤ人のゼイブルとマーシャの夫婦だ。<ぼく>は店に集まるそんな彼らの話を聞くため、カフェに足を運ぶ。
客の一人、ザルマンは、1939年、ワルシャワが爆撃されたことを機に、隣国リトアニアに避難した。そこでソビエト連邦支配下から出る手段、日本をトランジットしてビザ不要のキュラソーに出る――を知る。
世界中の領事が沈黙する中、日本領事代理の杉原千畝は志願者にスタンプを押し続け、ザルマンはその幸運にあずかって、敦賀、神戸へ流れ着く。しかし、同盟国ドイツから日本に圧力がかかり、ザルマンら難民は再び海に出る。実在したカフェを舞台に、ホロコーストを逃れたオーナー夫婦や客たちの戦争にまつわる回想をつづった小説。ザルマンらの物語に伴走させて、同時期にシベリアでの過酷な労働、カザフスタンで戦争期をやり過ごした人たちなど「複数同時配信」的に語られる物語は、リアルで映像が目に浮かぶようだ。
(共和国 3200円+税)