「とてつもない嘘の世界史」トム・フィリップス著 禰冝田亜希訳
至るところに大量の嘘やデマが出回っている。政治情報にせよ、感染症情報にせよ、何が本当で何が嘘なのか、確かめるすべもなく途方に暮れることも多い。しかしこれは、本当に現代特有の現象なのか。本書は、元オンラインメディアの編集ディレクターで、今はフェイスブックが事実検証の審査を行っている非営利団体フル・ファクトで編集者を務める著者が、繰り返してきた嘘の歴史について、さまざまな角度から考察したもの。
どんな時代にも嘘による「荒らし」は存在し、人は真実よりも根拠のない作り話を拡散し、でたらめを重ねてきた。たとえば、米国建国の礎を築いたベンジャミン・フランクリンは、ほらをふく名手だった。印刷屋時代にはライバルの学友を装い嘘の死亡情報を流して売り上げを伸ばし、政治の道に入ると、先住民が米国独立軍を殺して頭の皮を剥いだというデマを国外に流して講和条約を有利に進めるなど、嘘を狡猾(こうかつ)に使った。嘘に対処するには、検証する労力をいとわないこととする著者は、巻末に参考文献を掲載している。まさかと思ったら、文献原文にあたると唖然とさせられるかも。
(河出書房新社 2300円+税)