「飛燕の簪(ひえんのかんざし)」知野みさき著
縫箔(ぬいはく)師の咲は注文のたばこ入れを納めに日本橋の小間物屋へ。縫箔師とは、たばこ入れや財布、くし入れなどの小物に刺繍と金銀の箔で模様を施す職人だ。帰り道、咲は立ち寄った店で目にした銀の簪に一目ぼれする。飛燕とモクレンの意匠が見事で聞くと今人気の錺(かざり)師・修次の作だという。欲しいが、値段を聞いて二の足を踏んでしまう。
翌日、それでも諦められず再び店を訪ねると、当の修次が現れ、簪は出来損ないなので売れないという。そして店の手代と修次、そして咲が店頭でもめていると、現れた子供が簪を奪って逃げ出し、後を追いかけた修次と咲は、犯人が逃げ込んだ神社で簪を手にした男の子に出会う。
幼くして両親を亡くし長屋で暮らす女職人を主人公にした時代連作集。
(角川春樹事務所 640円+税)