「じんかん」今村翔吾著
狩野又九郎は松永久秀の謀反を信長に報じねばならないことで苛立っていた。これが初めてではない。だが、前回は皆の予想に反して許された。今回も信長は鎮圧には嫡男の信忠を行かせると言いながら「降伏すれば赦(ゆる)すとも伝えよ」と続けた。久秀は信長に許されることを知っていた。
久秀の信長への2通の書状のひとつは謀反の宣言書だったが、2通目は信長が降伏を許した場合の条件を問うものだった。書状には「即刻、37人の家族を救って頂きたい」とある。信長が「名は何と記してある」と尋ねた。「九兵衛……」と答えると、信長の口元が綻んだ。
主を殺し、将軍を暗殺した悪人として知られる松永久秀の人生を描く長編時代小説。
(講談社 1900円+税)