知るほどに奥深い いろいろ日本語本特集

公開日: 更新日:

「難読漢字の奥義書」円満字二郎著

 日本人が日々当たり前のように使っている日本語。その繊細さや豊かさを知ることは、表現力を養うだけでなく、日本の文化を知り、日本という国を知ることにもひと役買う。漢字や俳句、流行語など、日本語の奥深さを楽しめる5冊を紹介しよう。



 クイズ番組などでブームの難読漢字。これらを読めるようになるには、漢字の規則性を知っておくと突破口が開けることもある。そんな難読漢字を読むための奥義を教えてくれるのが本書だ。

 一部分の音読みを予想すれば、言葉の意味が分からなくても読めてしまう難読漢字は少なくない。例えば「蟠踞」。ある場所にどっしりと存在していることを表す言葉で、「番」と「居」を合わせて「ばんきょ」と読む。ドーム状の建築物を表す「穹窿」、おっかなびっくり進む「跼蹐」などもこの類いだ。

 漢字全体の音読みとその一部の音読みが一致する。これは、ある言葉を表す漢字を作るとき、すでにある漢字の中から発音の一致するものを探し、部首を付け加える「形声」という方法で作られた漢字が多いため。漢字の8割が形声で作られたというから、難読漢字といえどもよく観察すれば、読めるものが増えそうだ。

(草思社 1500円+税)

「ふだん使いの言語学」川添愛著

 言語学というと難しい学問のイメージだが、本書が取り扱うのは“ふだん使い”の言葉。言語学を土台に言葉の法則性を解説し、そこから「他人が自分の言葉をどう解釈するか」「自分の言い方は不自然かもしれない」などの気づきを与えてくれる。

 例えば、言葉の背景的な意味に気を付けること。女性講師による人工知能に関する講演を聞きに行き、大変感銘を受けたとき、講師に「面白かったです! 女性なのに人工知能の研究をやっているなんてすごいですね!」と発言したとする。あなたは褒め言葉のつもりかもしれないが、「XなのにY」という表現には、“事前に成り立っていなければならない内容”がある。この場合、「女性は通常人工知能の研究はしない」という背景的な意味があるわけだ。こういう失敗を避けるには、「〇〇だけれども××だ」など、逆接の接続詞は十分注意して使うことだと本書は警告している。

(新潮社 1450円+税)

「名句の学び方」岸本葉子、岸本尚毅著

 5・7・5の中に美しい日本語を凝縮して表現する俳句。しかしいざ詠んでみると、同じような句ばかりになるなど簡単にはうまくいかない。そんな俳句の疑問や悩みに答えてくれるのが本書だ。

 句会などで多く聞かれる悩みが、「散文的になってしまう」ということ。良いテーマを詠んでも、単なる文章になっていては感動も薄れてしまう。

 これを解決するには、強く言い切る働きを持つ「や」「かな」「けり」などの「切字」を使うこと。明治、大正、昭和の3代にわたる俳人・高浜虚子も、切字に直した作品が多いという。「子規忌へと無月の海を航すべく」を「子規忌へと無月の海をわたりけり」に、「門畑の秋茄子の日に籠みつる」を「秋茄子の日に籠にあふれみつるかな」など、推敲された句が数多くあるそうだ。

 美しい叙景なら水原秋櫻子、知的な構成なら山口誓子など、詠み方の参考になる名句も紹介している。

(NHK出版 1200円+税)

「作詩の技法」なかにし礼著

「石狩挽歌」や「北酒場」など、およそ4000曲の作品を世に送り出してきた作詩家の著者。本書は、40年前に出版された著書に加筆修正を行い、曲に乗せるための「詩」の生み出し方を伝授している。

 著者は、歌には「五体」が必要だという。例えば「頭」。ここには、人間の知性が納得する要素が不可欠だ。「生命に終わりがある恋にも終わりがくる」(浜口庫之助「粋な別れ」)、「真綿色したシクラメンほど清しいものはない」(小椋佳「シクラメンのかほり」)など名曲の頭である歌い出しを見てみると、どれも当たり前のことを言っている。それでいいのだが、ただし当たり前のことをいかにして自分の言葉で表現するかに心を尽くすことが重要だと説いている。

 歌を書きたくなった動機を込める「胴体」、詩に“肌あい”や“あたたかみ”を乗せる「手」など、作詩に欠かせない五体の書き方が、著者ならではの表現で解説されている。

(河出書房新社 2400円+税)

「戦前尖端語辞典」平山亜佐子編著、山田参助絵・漫画

「円婚」という言葉をご存じだろうか。これは、90年近く前の日本の結婚事情を表した言葉。東京で昭和8年に始まった市営の結婚紹介所の手数料が1円だったために、当時はやった言葉だ。

 本書は、大正8年から昭和15年までに発行された新語・流行語辞典からユニークな言葉285語を取りあげて解説した“昔の”流行語辞典。父母、祖父母の時代にも世相や風俗を表す新しい言葉が生まれていたことが分かり、それらをひもとくと当時の日本の姿がありありと見えてきて面白い。

 今では当たり前のことだが、「自由結婚」を表す「フリー・バルーン」という言葉も流行語だった。風に吹かれてフワフワと一緒になるという意味で、けしからんといった思いが込められていそうだ。

 罹患した者には懲罰があったことから性病を指す軍事用語の「三等症」、カフェの女給を追い回す不良老人を指す「モダン・ジイ」など、興趣が尽きない言葉ばかりだ。

(左右社 1800円+税)

【連載】ザッツエンターテインメント

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動