読書の達人が指南 古典、名作の読み方本特集
「野の古典」安田登著
作品名を知っているだけでなんとなく読んだ気になっているが、実は読んでいない。そんな古典や名作、話題になった作品を手に取ってみよう。読書の達人のオススメの作品が、あなたの知らなかった世界への入り口になるかもしれない。
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多くの人が学校の授業で嫌いになるが、それでも古典が読み継がれるのは、古典には二日酔いの朝に飲む水のように、心をすっきりさせる力があるからだ。例えば最古の歌集「万葉集」には素朴な恋の歌が多い。武器の太刀を身につけている「ますらを」でも、こんな歌を詠んでいる。
「剣刀諸刃の上に行き触れて死にかも死なむ恋ひつつあらずば(これほど恋に苦しむのならば、剣や太刀の刃に触れて死んでしまいたい)」
いっぽう女性の恋人を誘う歌にはなかなかしたたかなもの(五七七五七七の旋頭歌)もある。
「玉垂の小簾の隙に入り通ひ来ね たらちねの母が問はさば風と申さむ(玉の簾の隙間から通って来てね。母から何かいわれたら『風よ』とこたえるわ)」
ほかに、金と女を手に入れようとした物語を書いた西鶴など、古典を身近に感じさせてくれる一冊。
(紀伊國屋書店 1800円+税)
「ひきこもり図書館」頭木弘樹編
地球から金星ビーナス・ポリスへ物資を運搬している宇宙船で、ナワは酸素ボンベから酸素が冷凍コイルに注入されないことに気づいた。ボンベにはこう書かれていた「豆乃華特上味噌/宇宙空間輸送用パック」。モリ船長は、金星の親戚に味噌を届けてほしいと妻に頼まれたという。金星到着まで2人に必要なボンベは5本で、スペアボンベ2本は要らないから味噌入りのボンベと取り換えたと。だが、実はボンベ室に腐食箇所があるため、スペアボンベは積載しなかったのだ。つまり酸素ボンベは4本しかないのだ。(「フランケンシュタインの方程式」)
他にE・A・ポーの「赤い死の仮面」など、部屋から出られない人を描く12の物語。
(毎日新聞出版 1600円+税)
「正しい答えのない世界を生きるための 死の文学入門」内藤理恵子著
セールスマンのグレーゴル・ザムザがある朝、巨大な虫に変身する物語が、カフカの「変身」である。両親は虫になったグレーゴルを忌み嫌う。
グレーゴルは天井にへばりついていると、ほとんど幸福といっていいくらいの放心状態に陥るようになり、虫らしくなっていくが、その一方で家族への愛と音楽に対する感受性は変わらない。妹の奏でる美しいバイオリンの音に聴きしれる。「音楽にこれほど魅了されても彼はまだ動物なのであろうか」とカフカは書くが、映画「レオン」でサイコパスの悪役がクラシック愛好家であるという設定になっているのを見てもわかるように、芸術的感性と人間性はなんら関係がないのだ。
他にドッペルゲンガーというテーマに挑戦したドストエフスキーの「分身」など、死生観や世界について考えさせる作品を紹介する。
(日本実業出版社 1700円+税)
「(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法」三宅香帆著
「異邦人」という不条理な作品で知られるカミュが1947年に書いたのが「ペスト」だ。ウイルスが蔓延する世界で生きる人びとを描いていて、新型コロナウイルスに悩まされている現在の状況と酷似している。
この作品は主人公がなかなか出てこず、その代わり何かといえば町の「記録」が出てくる。実はこれは「海外古典小説あるある」なのだ。この中に「誰でもめいめい自分のうちにペストをもっているんだ」という言葉が出てくるが、著者はここにカミュの思想が隠されていると仮定する。カミュは「ペスト」を何かのメタファーとして語っているが、その答えは読者が考えることである。
他に、三島由紀夫は金閣寺をアイドルとして見た、など、ユニークな視点で名著20作を読解する。
(笠間書院 1500円+税)
「この1冊、ここまで読むか!」鹿島茂ほか著
鹿島が自分との対談のテーマとして、加藤典洋の「9条入門」を挙げたので、高橋源一郎は驚いた。フランス文学者の鹿島と憲法第9条が関係があると思わなかったのだ。フランスのビシー政権は1940年にナチ・ドイツに降伏するが、4年後にパリが解放されると、フランス人はビシー政権はなかったことにしようとした。
一方、日本は終戦時、占領軍に全面屈服し、それまでの体制をあたかも自主的に国民の発意であるかのように全面的に否定して占領軍に迎合した。当時の幣原・吉田内閣と、ペタン元帥のビシー政権は似ているのではないか、と鹿島はとらえている。フランスはユダヤ人虐待に手を貸したこともなかったことにしたのだ。
ほかに「絶滅の人類史」「論語」など、鹿島茂が成毛眞らとの対談のテーマに選んだ「読むべきノンフィクション」。
(祥伝社 1600円+税)