視野が広がるおもしろ科学本特集
「新型コロナの科学」黒木登志夫著
パンデミックに右往左往する世界を眺めまわすと、科学を無視した国家指導者の発言を多々目にする。ああはなりたくないし彼らに率いられる国民には同情しかない。新型コロナウイルスは、科学的思考の大切さを改めて現代人に教えてくれたともいえる。今週は、そんな科学的思考に磨きをかけてくれる科学おもしろ本を紹介する。
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昨年3月以来、新型コロナウイルスの情報発信を続けるサイエンスライターが、研究の最前線を伝えるリポート。
まずは、感染の仕組みから経過や症状、その数理分析など、新型コロナウイルスを理解するための基礎知識を解説。
その上で、2019年12月1日に中国・武漢で確認された1人の患者から始まり日本、そして世界に広がっていった経過を追う。その中で、人工的に作られた生物兵器説や感染症対策のゲノム解読の結果公表が遅れた背景、武漢ウイルス研究所のキーパーソン石正麗氏の研究などに触れながら、新型コロナウイルスの起源に迫る。
さらに日本と各国の対応の検証や、検査や特効薬とワクチン開発の現在など、医療の現場を取材し、コロナと共に生きる社会を展望する。
(中央公論新社 940円+税)
「生命科学的思考」高橋祥子著
生命科学の研究者で起業家でもある著者によると、個人の人間関係の問題や組織運営で起こる課題のほぼすべてが生命の原理・原則に基づいて説明、解釈が可能だという。
不安や怒りなどの負の感情の多くは「自身の生存が脅かされているのではないか」という生物的な危機意識に起因。チームや人間関係で生じる悩みは、集団生活を送ることで生存可能性を高めてきたヒトの遺伝子が備える、人間関係を形成する機能という観点から説明できるそうだ。そうした生命の原理や原則を理解した上で、それにあらがうために主観的な意思を生かして行動するための思考法を説くレクチャー本。
DNAとRNAの関係を起業における経営理念と戦略の関係に置き換えて考えるなど、生命科学の視点でどう人生や仕事に向き合うかを伝授。
(ニューズピックス 1800円+税)
「『はやぶさ2』が拓く 人類が宇宙資源を活用する日」川口淳一郎著
初代「はやぶさ」のプロジェクトマネジャーが宇宙探査の未来を案内してくれるテキスト。
「はやぶさ」プロジェクトは、日本が世界に先駆けて手掛けた小惑星探査計画。小天体を目指すのは、太陽系ができたころの情報が詰まっているからだという。「はやぶさ2」ミッションの目的は、水と有機物の起源を探ること。リュウグウの探査で、地球に水が運ばれてきた経緯を知る手掛かりが得られたそうだ。
小惑星にクレーターを作ったインパクタや、イオンエンジンなどの技術開発の舞台裏や米国の月探査計画、はやぶさ2と同時期に月から2キロもの試料を持ち帰った中国の嫦娥5号の注目すべき技術などを解説。宇宙資源を持ち帰り利用する環境が整いつつある現在の技術や政策、宇宙をめぐる国際関係まで概観する。
(ビジネス社 1500円+税)
「科学者たちが語る 食欲」デイヴィッド・ローベンハイマーほか著 櫻井祐子訳
南アフリカのヒヒの食生活を30日間調べたところ、90種もの食物を口にしたにもかかわらず、1回の食事のタンパク質/脂肪・炭水化物の比率が30日間ずっと変わらなかったという。
本書は、そんな生物の摂食の仕組みについて解き明かしたリポート。
ヒヒをはじめ、50種以上の動物を調査した結果、動物は食べ物全般に単一の食欲を持っているのではなく、タンパク質、炭水化物、脂肪など重要な栄養素それぞれに対して別々の食欲を持っていることが判明したという。
そして、何よりもタンパク質の摂取が優先されるので、タンパク質の必要量を摂取するまで食べ続ける。現代人の食環境では、タンパク質比率が低くなりがちで、その結果、必要量のタンパク質を取るために食べ続け、摂取カロリーが増えて肥満になるという。
(サンマーク出版 1600円+税)
「LIFE SCIENCE(ライフサイエンス)」吉森保著
現代人にとって必須の教養ともいえる生命科学の基本から最先端までを、解説してくれる入門書。
科学の前提とは、意外にも「真理や正しさをどこまで追究したところで、本当にそれが正しいかどうかわからない」ということだそうだ。ゆえに科学とは、仮説(理論)をどんどん良いものにして、真実に近づける営みだという。その存在が明らかになっていなかった時代に、細菌や遺伝子の仮説を発表した科学者たちの功績などを紹介しながら、科学的思考の大切さを説く。その上で、まずはすべての生命の基本単位である「細胞」の成り立ちについて詳しく講義。
そうした細胞の知識をベースにさまざまな病気についても学ぶ。そして著者の専門である細胞を「自分の力で新品にする機能」であるオートファジーを通して、細胞や病気の研究の最前線を紹介。
(日経BP 1700円+税)