「無刑人 芦東山」熊谷達也著
奥州仙台領渋民村の岩渕孝七郎(芦東山〈あしとうざん〉)は、仙台藩の藩儒を務めていたが、ある日、評定役から、妻子ともども伊達家重臣の石母田愛之助にお預けとなったと告げられる。藩の学問所の座列について、学問所の主立(おもだち)である高橋与右衛門の案に逆らったことが原因だった。
俸禄は支給されるが筆を持ってはならぬということだったのに、石母田頼在が身柄を預かることになったと言われ、見事なすずりと筆を渡された。鬱々として過ごしていたとき、妾のますに、藩儒の仕事から解放された今こそ、室鳩巣に託された「無刑録」の執筆にとりかかるべきだと諭される。24年にも及ぶ幽閉生活の中、刑法思想の根本原理を論じる書を著した儒学者を描く。
(潮出版社 1980円)