「江戸染まぬ」青山文平著
美しすぎる兄に圧迫感を感じながら生きてきた私は、貧乏旗本の妻になった。今年7歳になる長女は私に似てぱっとしないが、肌は抜けるように白くてきめが細かい。疱瘡(ほうそう)にかかって痕が残ることを心配して、疱瘡除けの「つぎつぎ小袖」を仕立てることにした。7家の親類に布を用意してもらい、持ち回りで一枚の小袖に仕立ててもらうのだ。
7家の中で仏様のような家があるが、そこに行くのが怖い。以前、借財の申し入れを断ってしまったからだ。夫がほしがっていた全20巻の漢籍を借金して買ってしまったので、応じられなかったのだ。私にとって、それは夫への「恋文」だった。(「つぎつぎ小袖」)
江戸に生きるひとびとの心意気を描く7編の時代小説。
(文藝春秋 1400円+税)