沢野ひとし(イラストレーター・エッセイスト)
4月×日 人は好きなものを見つけると、歓喜して追いかけて行く。和田靜香、金井真紀の美女コンビは腰を落とし、摺り足で「世界のおすもうさん」(岩波書店 1980円)に迫って迫った。
私のようなジジイの少年時代の遊びといえば相撲であった。道端で、校庭で、野原でぶつかりあっていた。今の小僧たちは派手なウェアーでサッカーばかりだ。
しかし、本書によるとあにはからんや両国国技館にはちゃんと1200人の小中学生が相撲を取っている。それも香港、台湾、アメリカ、タイ、モンゴル、中国、韓国と国際色豊かと知り驚愕した。
優勝した15歳の少年がわんわん泣いて「自分の相撲を取るだけっす」の言葉にジジイも不覚にも貰い泣き。
旅は人を育てるというが、北海道から沖縄、韓国と塩まみれ、砂まみれになって、体当たりの取材が続く。
読み耽っているうちに、相撲の歴史、文化、国籍も年齢も異なる“おすもうさん”たちの人生をいつの間にか知る。やがてジジイも「手をついてーはっけよいー」と2人の行司(著者)のかけ声に奮起させられる。
取材で和歌山に向かうとき、有吉佐和子の「紀ノ川」の小説を思い出し感傷にひたる場面があるが、美しい旅のシーンを見るようだ。
だが後半、韓国、そして肌の色もことばも違う大阪での世界大会、さらに内モンゴルとがっぷり四つの横綱相撲で書いて前へ前へ進む。2人の品格、体感、力量がメラメラと燃えてくる。
テレビ観戦だけでは分からない、もう1つの相撲の裏側、技をがっちり解説してくれる。
添えられた、金井イラストレーターの好きでたまらないといった雰囲気のさし絵が和みの極致である。さらに自分たちがおすもうさんと一緒に写真を写し、載せているところも微笑ましい。
ジジイの愛読書の1冊になるはず。