桜木紫乃(作家)
3月×日 長編を2本同時進行で書く、という昨年の目標完遂。「俺と師匠とブルーボーイとストリッパー」(過去最高に長いタイトル)を発刊し、「緋の河」もラストを書き終えた。そして人生の褒美のように、絵本「いつか あなたを わすれても」も発売となる。担当を始め、実にさまざまな人を巻き込んできたなあ。つくづく、本を出すという行為は心中のようだと思うひととき。
3月×日 人生初絵本の新聞広告隣に江口寿史氏の「彼女」(集英社 4950円)があった。今年の7月旭川で開催されるイラスト展はぜったいに観に行こうと思っていたし、と購入。やだもう、なにこれ、ステキだ。困っちゃうなあ、女の子の内側の「おんな」をこんな風に表現しちゃうのか。漫画家が見ているものを想像すると、ゾーッとしちゃうよ。ときどき、江口氏のつぶやきも活字になってて、「絵を描くことは、高揚と失意の繰り返しです」なんて一行を見つけた日にはもう、この人に会いに行ったろうぜ旭川、ってな気持ちになる。小説も同じです。毎日毎日、高揚と失意の繰り返し。そこに自己嫌悪が挟まって、実に厄介。7月、北海道でお待ちしてます、江口先生。
3月×日 なんとなく怠い日は詩集を開く。今日は谷川俊太郎の「すてきなひとりぼっち」をぱらぱらぱら――。「私が歌う理由」を二度読む、三度読む。詩は心を洗う言葉のシャワーである。この鋭く尖らせキンキンに冷やした言葉のシャワーを浴びると、背骨がまっすぐになる。ああまだ自分は人である、と確認する。いい日になった。
3月×日 お、海原純子さんが本を出したぞ。「『繊細すぎる人』のための心の相談箱」(PHP研究所 1573円)。ふんふん――愚痴の聞き役でツライ人へのアドバイス――心の中で「私はゴミ箱ではない」とつぶやいてみる。なるほど、そうすると安易に言葉を垂れ流せないオーラがにじみ出るらしい。ちょっと待て。クールビューティな美人担当Nの顔が浮かんでしまったではないか。