自宅で堪能できる鳥獣戯画本特集

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「鳥獣戯画のヒミツ」宮川禎一著

 東京国立博物館で開催中だった特別展「国宝鳥獣戯画のすべて」が、緊急事態宣言の発令で中断した。去年1度企画されながら新型コロナウイルスの影響で1年延期となった末の開催だっただけに、がっかりしている人も多いはず。今後の再開催を全力で祈りつつ、今回は自宅で堪能できる鳥獣戯画本5冊をご紹介!



 東アジアの考古学を専門とする著者が、甲巻に込められた意味を文学的に読み解く異色本。編集者とのQ&A構成で、著者の考察の二転三転を一緒に体験できる。

 ウサギとカエルのモチーフが描かれた中国の唐代の銅鏡を見て、有名なウサギとカエルの場面を発想した著者は当初、甲巻は月世界を描いた話ではないかと仮説を立てた。そこからウサギが登場するインドの仏教説話や今昔物語集、中国の古典文学の「大唐西域記」を調べ、そこで仏陀がウサギだったときの話にまでたどり着くものの、鳥獣戯画を描かせたとされる明恵の文献をあたると、今度は法然と明恵の仏教観の対立こそが甲巻全体を貫く隠れテーマなのではないかという考察が浮上。

 ついにカエル=釈迦、ウサギ=明恵という新解釈に行きつく著者の推理劇が楽しい。

(淡交社 1870円)

「もっと知りたい鳥獣戯画」三戸信惠ほか監修・著 板倉聖哲著

 作品の魅力はもちろん、日本美術史から鳥獣戯画について深掘りしたいという人にお薦めなのがこの本。作品が生まれた時代背景や同時代の作品と比較しつつ、多くの人をとりこにしてきた鳥獣戯画のルーツから作品誕生後の影響までがわかる。

 日本の戯画の歴史は、飛鳥・奈良時代の正倉院文書の余白に描かれた落書きなどにまで遡る。その後、平安時代には和歌に添えられた「嗚呼絵」と呼ばれるたわいもない絵が誕生。この嗚呼絵こそが鳥獣戯画の祖先らしい。

 嗚呼絵は中世に入ってからは「しゃれ絵(戯れ絵)」へと進化し、「放屁合戦絵巻」などのユーモラスな作品が次々と登場。鳥獣戯画は、当時この「しゃれ絵」のひとつだった。その後、鳥獣戯画が葛飾北斎らの浮世絵師に影響を与えたことなども紹介されている。

(東京美術 2200円)

「カラー版 鳥獣戯画の世界」上野憲示監修

 甲乙丙丁の4巻から成る鳥獣戯画は、知名度ナンバーワンの国宝でありながら、日本美術史上わかっていないことが多い謎の絵巻といえる。本書は、その謎を解説し、現時点での研究成果と最新知見を紹介している。「いつ描かれたのか」「誰が描いたのか」「何のために描いたのか」「何が描かれているのか」「断簡・模本は何を意味しているのか」の5つの謎を5章構成で整理している。

 興味深いのは第5章で取り上げた甲巻2巻説だ。甲巻前半の第1紙から第10紙には下部に等間隔で損傷痕が残っているが、それ以外には損傷痕がなく、過去2巻本だった甲巻が1巻に再編集された可能性を指摘。平成の大修理の際に甲巻の紙質が前半とそれ以降で異なっていることも判明し、甲巻2巻説が濃厚になったのではないかと解説している。

(宝島社 1298円)

「国宝鳥獣戯画の世界」山口謠司監修

 躍動感あふれる鳥獣戯画の筆遣いを、間近で見たいというファンの願望に応えてくれるのがこのムック本。見開きを開けると甲・乙・丙・丁全巻全場面のポスターがついており、のっけから目を奪われる。巻物の絵柄の一部でなく、全体の流れを把握することができるのだ。

 たとえば、最も人気の高い甲巻の第2紙では、鼻をつまんで背中から水面にジャンプするウサギのすぐ横に、飛び込んだ後に足だけ水面に出ているウサギが描かれている。これは、同じウサギの時間経過を同じ画面に描く「異時同図法」と呼ばれる絵巻物の手法を使った描き方によるものだそう。ほかにも、ヘタウマ風に人物を描いた丁巻には、甲巻に描かれた猿の大僧正の法会のパロディー画があることも解説。ページをめくってぜひ比較してみてほしい。

(メディアソフト 1280円)

「謎解き 鳥獣戯画」芸術新潮編集部編

 有名な絵を見てみたいと博物館に出かけても、なんとなく見ただけで終わってしまう人も少なくないはず。そんな人にお薦めなのがこの本。全長122センチで全巻全場面を一気見できる特別折り込みページをさらりと入れつつ、東京国立博物館で特別展室主任研究員を務める土屋貴裕氏の解説がQ&A方式で読めるように構成されている。まさに今回の特別展ど真ん中の専門家が、耳元でしっかり絵の見方を解説してくれるバーチャル鑑賞体験が味わえるのだ。

 たとえば「いたるところに高山寺の印が押されているのはなぜ?」という質問に対しては、絵の散逸を防ぐため紙の継ぎ目に印が押されたことなどが説明されている。加えて紀行エッセイストによる高山寺夢紀行つき。ステイホーム中に十分楽しめる企画力に脱帽だ。

(新潮社 2200円)

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