持て余すおうち時間にお薦め時代小説特集
「方丈平家物語」伊藤俊也著
まさかというか、案の定というか、3度目の緊急事態宣言発令で昨年に続き、今年のゴールデンウイークも我慢を強いられることになってしまった。持て余す「おうち時間」をやり過ごすには時代小説がピッタリ。コロナもスマホもネットもない世界へのタイムスリップをしばし楽しもう。
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京都の某寺の土蔵から「伝鴨長明作 方丈平家物語」と書かれた書物が見つかった。それは作者不詳とされる「平家物語」の著者が鴨長明であったことを証明する彼の自伝であった。書を訳すと……。
月が日ごと光る部分を失い、その姿を失いながら、また満ちてくる不思議を思い、人の一生もそのようであれば面白い、と私(長明)は月を見上げていた。そのとき、長い間、見つからず呻吟していた語り始めの一行がふと口をついて出てきた。
生まれてすぐに母を亡くした私は、賀茂神社下社の総官である父の祝詞を子守歌に育った。兄がいる私は祖母の家を後継することに。長らく宮仕えをしてきた祖母は、寝物語として私に御所内の出来事を聞かせてくれた。
鴨長明の波乱の生涯を描き、平家物語誕生の謎に迫る歴史長編。
(幻冬舎 1980円)
「いわいごと」畠中恵著
神田の町名主・高橋家の跡取り、麻之助は父の宗右衛門に任された揉め事の裁定も放り投げたまま、何日も布団の中で過ごしていた。縁談が持ち上がったのだが、待てど暮らせど先方から返事が届かないのだ。
そんなある日、縁談相手の日本橋の料理屋の娘・お雪本人が訪ねてくる。大水で死にかけ、以前のことを覚えていないお雪は、かつて自分が麻之助のことをどう思っていたのか知りたいという。
話を聞いた宗右衛門は、お雪に麻之助が手掛ける揉め事の裁定を手伝ってみてはどうかと勧める。揉め事の主は、金を出し合って買った富くじが当たった3人の男たち。麻之助は、渋々、お雪を伴って3人に会いに行く。(「こたえなし」)
普段はお気楽ものだが、裁定にはひらめきを見せる麻之助と仲間の活躍を描く人気シリーズ第8弾。
(文藝春秋 1540円)
「湯どうふ牡丹雪 長兵衛天眼帳」山本一力著
小網町の目明かし・新蔵は、白扇屋の吉野屋の噂話を耳にする。去夏、尾張町の米問屋の三男・岡三郎が、吉野屋の一人娘・おそめに一目惚れして、800両の持参金付きで婿入り。しかし、おそめの肌には指一本触れていないらしい。実は、おそめは職人の辰次郎と両親も認める仲で、持参金に目がくらんだ父親が、娘に理由をこじつけ半年は床入りを拒むよう指示。一方で連日、精のつくものを岡三郎に食べさせ、女中を襲わせる算段らしい。
事が起きる前に防ぎたい新蔵は、例によって老舗眼鏡屋村田屋の主人・長兵衛に相談を持ち掛ける。やっかいなのは、邪険にされても岡三郎がおそめに一途だということだ。(「蒼い月代」)
その他、村田屋の番頭をかたる男が登場する表題作など、長兵衛が事件の謎に挑む人情ミステリー。
(KADOKAWA 1980円)
「走れ、若き五右衛門」小嵐九八郎著
天文6(1537)年、遠江国の東のはずれに暮らす虎太の父が、戦の訓練中に落馬して死ぬ。集落は今川の領内だが、東から北条、北からは武田に狙われ、戦が絶えない。そのたびに、百姓はどの軍勢に味方するか見定めてきた。
もとはといえば公家の下っ端の成れの果てである母親の右は、すさんだ世を渡るために総領の虎太に読み書きそろばんをはじめ、ありとあらゆる教育を施す。15歳になった虎太は、近隣の村の子どもたちを集め、大将として合戦の練習を率いるまでになった。
そんなある日、虎太は里に現れた男たちに拉致されてしまう。運命に身を任せることにした虎太が連れていかれたのは雑賀衆の隠れ里だった。そこで虎太を待っていたのは盗賊になるための命がけの訓練だった。
石川五右衛門の青春を描くピカレスクロマン。
(講談社 2255円)
「花下に舞う」あさのあつこ著
北定町廻り同心の木暮信次郎は、相生町の口入れ屋「佐賀屋」で殺しがあったと聞き、駆けつける。殺された主人の徳重と妻のお月は、何かにひどく驚いたような死に顔をしていた。
岡っ引きの伊佐治によると、夫婦は稼業とは別に金貸しをしていたという。前夜、徳重は金を貸していた先妻の弟が死んだと聞き、森下町の油屋「今の屋」に金を取り立てに出掛けたらしい。森下町に出向いた伊佐治は、顔なじみの小間物問屋「遠野屋」の主・清之介と会う。聞くと、遠野屋の手代・弥吉が「今の屋」の葬式で徳重が起こした騒動に居合わせていたと分かる。
同じころ、信次郎は亡き母がかつてつぶやいていた言葉の真相を求め、20年前のある事件の関係者を訪ねる。
信次郎と清之介の人生が交錯する大人気「弥勒」シリーズ最新刊。
(光文社 1760円)