大人のコミック特集
「学校へ行けなかった僕と9人の友だち」棚園正一著
テレビをつけても新聞を開いても、コロナの話題ばかりで辟易(へきえき)。洪水のように襲ってくる情報に溺れそうになる日々が続いているが、こんな時は、マンガを読んで脳をリフレッシュするに限る。というわけで、コロナのことをしばし忘れられる、お薦めマンガを紹介する。
自身の不登校体験を描いた話題コミックの続編。中学3年から現在までの紆余曲折を、転機になった人々との出会いを通して描く実録コミック。
正知(本名)は、漫画家を志し毎日机に向かうが行き詰まり、漫画を描けなくなってしまう。
思い詰めた正知は、中3の2学期、意を決し登校する。しかし、失敗しないようにと思えば思うほど緊張。そして体育祭の練習中に大失敗をしてしまう。
絶望する正知は、ひとりの同級生に声をかけられる。三上と自己紹介する彼は、正知の絵が漫画誌に載ったことも知っており、友だちになってよと言ってくれる。
何度も何度も行き詰まり、挫折を繰り返しながらも人との出会いによって前に進む正知の姿は、不登校だけでなく、人生に悩むすべての人に生きるヒントを与えてくれる。 (双葉社 815円)
「いきもののすべて」フジモトマサル著
擬人化したどうぶつたちを主人公に描くちょっとシュールな4コマ集。
表題作(全50作)では、仕事中に暇を持て余し消しゴムでサイコロ作りに励む会社員のパンダや、定年を迎えた夜間警備員のモグラとその妻、階下で火事が起きているのに不毛な言い争いが止まらないスカンク夫婦、ゴーストライターのアルマジロ、そして大海を漂流中のトラなどが登場。
続く「マガオくん」(全89作)は、デザイナーのオスのウサギを主人公にした連作モノ。
こちらも転職先のデザイン事務所で古株OLの夢子から「いくつに見える?」と問われ、何と答えるべきか頭を巡らすマガオや、マガオがどんな理由で辞めるか賭けを始める同僚ウサギなど、私たちと同じ日常をどうぶつにするだけで世界が変わって見えてくる。
(青幻舎 1760円)
「農家メシ!」パウロタスク著
2018年4月、東京で働いていた著者は、結婚を機に、岩手の妻の実家に引っ越し、義母すずよさんと義祖母マツさんと暮らし始める。
イラストレーターとして家で働く傍ら、2人の農作業を手伝うようになった。本書は、そんな田舎暮らしの日々を、食卓を中心につづったコミックエッセー。
引っ越し初日から著者は、食事のおいしさに感激する。普通のメニューなのに全然味が違う。米も野菜もすべてすずよさんとマツさんが作ったもので、おいしさの秘密は鮮度だった。以後、田んぼ仕事やビニールハウスの設置、そして近所付き合いなど農家の日々を紹介。
一方で自家製の取れたて野菜を使った毎日の食事や、「ひっつみ」や「きりせんしょ」などの郷土料理、お菓子などのおいしさとレシピも伝える。 (幻冬舎 1430円)
「いいとしを」オカヤイヅミ著
42歳のバツイチ灰田は、母の死を機に実家に戻り、父と暮らすことに。交際中の恋人は、相談もなく決めたことにショックを受け、破局してしまう。
数日後、父との暮らしが始まった。初日、2人で弁当を食べながら、灰田は無口な父親のことをあまりよく知らなかったことに今さらながら思い至る。
万が一、父が倒れ、シモの世話などするようになったら憎くなったりするのかと想像すると、嫌な気分になってくる。
その夜、久しぶりに自分の部屋で寝る灰田は、少年時代に宝物入れにしていた缶を見つける。開けると500万円の現金が入っており、「お父さんにないしょです。俊夫のやりたいことのために使いなさい」と母からのメモが添えられていた。
何げない父子の会話がしみじみと心にしみてくる大人のためのコミック。 (KADOKAWA 1320円)
「家キャンプはじめました。」尚桜子著
コロナ禍でお出かけもままならず、「家キャンプ」を始めた一家を、そのノウハウと共に描くコミックエッセー。
家族に提案すると、子供は乗り気だが、意外にもアウトドア好きの夫が浮かない顔。道路に面した庭でのキャンプは恥ずかしいと言い出したのだ。そこで、まずはリビングにポップアップテントを広げて、「ゆるピクニック」から始めることに。
テントがあるだけで、いつものリビングが非日常な空間になるから不思議だ。食事に凝らなくても、カセットコンロでポップコーンを作るだけで気分が盛り上がる。
味を占めた一家は、いよいよ庭にテントを張ってみる。すると出入り口を家側にすれば、意外と通行人の視線も気にならない。その後も休日のたびにスキルアップ。
テクニックやお薦めギアなど情報満載の入門書。 (エイアンドエフ 1320円)