「夏の坂道」村木嵐著
新渡戸稲造や内村鑑三の薫陶を受け、政治上の「最高善」を目指して格闘し続けてきた戦後最初の東大総長・南原繁の生涯を描く歴史小説。
昭和32年師走、南原は香川県の地元名士の屋敷の離れで目を覚ます。地方を巡り講演を続けていたが、故郷の相生で倒れ、長く眠っていたらしい。心筋梗塞だった。6年前に東大総長は辞していたが、以後も休みなく働き続け、無理がたたったようだ。
枕元には東京から駆け付け、治療に当たった東大医学部教授の冲中が控えていた。思えば明治憲法の出た年にこの地に生まれ、新憲法や教育基本法の公布に携わった人生は、手ごたえのあるものだった。離婚後、女手ひとつで育ててくれた母は、息子の意思を知り、篤志家に援助を頼んで一高に送り出してくれた……。
(潮出版社 990円)