「ぼくの昆虫学の先生たちへ」今福龍太著
文化人類学者の今福は、偉大な作家や芸術家が、生物学や自然科学にも深い造詣をもって注目すべき仕事をし、しかもその2つの領域が有機的に連関しているように思われることに強い関心を抱く。そのひとりが鱗翅(りんし)学者でありながら「ロリータ」の作者でもあるウラジーミル・ナボコフだ。今福は高校生のときに「ロリータ」を読み、その倒錯的な内容にショックを受けた。
だが、後にナボコフの自伝的な小説「賜物」に、チョウを追い続けた者の至福の感覚が語られているのを知り、「虫採り」と「孤独」との間の深く豊かな関係に気づく。(「ウスバシロチョウの自伝」)
他に、ヘルマン・ヘッセや手塚治虫ら、昆虫に詳しい作家14人に宛てた架空の書簡の形で書かれたエッセー。
(筑摩書房 1870円)