赤神諒(作家・弁護士)
7月×日 今日も時間が足りなかった。法律と小説の二刀流を始めて4年、時間との戦いに明け暮れ、青息吐息。寝床で本を手に取る。髙橋洋一著「髙橋洋一式デジタル仕事術」(かや書房 1540円)。睡眠を削らず時間を増やす魔法――デジタル化で、事態を打開できないか。
日経朝刊に連載した最新作「太陽の門」は映画「カサブランカ」の前日譚で、スペイン内戦を題材としたが、疫病禍で現地取材はできず、Googleマップを活用。翻訳機能でスペイン語の文献も参照した。ITさまさまだったのだが、実はここだけの話、私は未だにスマホを持っていない。
元財務官僚で歴代総理のご意見番、驚異の仕事量を誇る髙橋洋一氏は、スマホだけでほぼすべての仕事をこなし、余裕綽々で趣味の映画やゲームを楽しむ。PCを自作・修理しプログラミングまでするITの玄人から、技を盗むのだ。
世に天才はいるが、氏もその一人だ。氏の真骨頂は、完全オリジナルなグラフ作成にある。「比較」の視点、客観的なデータの選別と分析、そしてロジカルな予測と検証の手法は、氏ならではの発想力と豊かな知識・経験によるところが大きいが、職種によっては直接使えそうだ。数学と経済が専門の氏と違い、ド文系の私は法律論文も小説も文字だらけ。でも、対極にいるからこそ、本質を学べる面もあるはず。
一例を挙げると、氏の仕事術の「シンプル」さだ。小難しいアプリ群や高性能なハードは無用。セキュリティーを高める意味でも、絶対に使う必要最低限のアプリしか入れず、エクセルその他標準装備を徹底的に使いこなす。データ分析の要諦も、全体像を理解し「過去・現在・未来」のように物事を過不足なく分けよ、とシンプルだ。全体を俯瞰しながら細部を詰めてゆく作業は、法律も小説も共通である。
テレワーク普及、デジタル庁発足、日本も加速度的にIT社会へ。仕事のさらなるデジタル化は攻めでなく、もはや取り残されないための守りのスキルと変わった。だからこそシンプルな仕事術を目指すべきだ……。
――え、もう朝? いかん、少し眠っておこう。