「名画のドレス」内村理奈著
西洋絵画は、描かれた人物もさることながら、身に着ける服がリアルに描写されていて、驚かされることが多々ある。
西洋服飾文化史の専門家である著者によると、服飾の細部まで描写するのは、人物の性格や社会的地位を分かりやすく表現するためで、実際の布地や装飾の質感まで伝わるよう描かれるのだとか。
ゆえに、絵画は写真が普及していなかった時代の服飾文化を知るには、最適な視覚資料であり、描かれた人物が身に着けている服飾の特徴で、時代が分かる。スカートのシルエットなどで、10年単位くらいで時代を確定することもできるそうだ。
そんな服飾に注目しながら西洋絵画を鑑賞するビジュアルテキスト。フランスを中心とする18~19世紀の絵画60作を、服飾用語をキーワードにして解説する。
例えばヴィジェ=ルブランによるマリー・アントワネット王妃の肖像画「薔薇を持つマリー・アントワネット」(1783年)。
ファッションリーダーでもあった王妃が、身に着けているのは、好きな淡い青色の宮廷服ローブ・ア・ラ・フランセーズ。本書では、ドレスにほどこされたレースに着目する。彼女の地位であれば豪華な最高級のレースで全身を覆うこともできたはずだが、ドレスのレースは、それほど華やかでもなく、量も多くない。用いられているのは、その文様や特徴からおそらくノルマンディー地方の都市アランソンか、その北にあるアルジャンタンのレースで、絵から王妃が実は簡素で繊細ではかなげなレースが好きだったのではないかと推測する。
他にも巨匠ジャン=フランソワ・ド・トロワが描く女性たちのドレスに用いられているリヨンの絹の「紋織物」をはじめ、「靴下留め(ガーター)」や「チョーカー」など。
一読すれば、西洋絵画を見る視点が変わるだろう。
(平凡社 3520円)