「NHK浮世絵 EDO-LIFE 東海道五拾三次」藤澤紫、NHK『浮世絵EDO-LIFE』制作班編著
浮世絵師・歌川広重の名を世に知らしめたヒット作「東海道五拾三次」は、江戸から京都に至る東海道の53の宿場を描く。
当世(うきよ)の出来事を切り取り、メディアとしても機能していた浮世絵には、グルメや風俗など、さまざまな情報が描きこまれている。
本書は、その「東海道五拾三次」の一景一景を、そのディテールにまで目を凝らして、鑑賞するアートブックであり、江戸解説本でもある。
「東海道五拾三次」は、起点の江戸・日本橋と終点の京都・三条大橋を合わせ全55図から成る。
まずはその日本橋の図。橋の手前に描かれるのは、魚や野菜を入れたざるや木桶を天秤棒で担いで売り歩く行商人「棒手振」や、野良犬などだ。そして、橋に目を転じると、今まさに橋を渡って参勤交代の大名行列がこちらに向かってくるのが分かる。その証拠に、行列の先頭を歩く「挟み箱」を担ぐ人足が見えてきた。
解説によると、大名たちは経費削減のため距離を稼ごうと、早朝に出立したという。また、正規の武士を揃えるのが難しい場合は、臨時に人足を雇い水増ししたらしい。
最初の宿「品川」の図でも、大名行列が通過するさまが描かれている。しかし、ここで注目するのは街道沿いに並ぶ旅籠の出入り口から行列を過ぎるのを見ている長襦袢姿の男だ。男は、どうやら旅籠の飯盛り女と一晩を過ごしたようだ。
そんな各場面の登場人物たちにフォーカスして解説する一方で、この品川宿を舞台に浪人と飯盛り女の恋の物語や、シリーズ中屈指の名作といわれる「庄野 白雨」で雨の中を駆け抜ける農夫の心中を推しはかる作品など、各作品にインスピレーションを得た小説なども添えられる。
立体的構成で傑作を味わい尽くすお薦め本。
(NHK出版 2420円)