「ぼくが歌う場所」中川五郎著

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 日本の第1次フォークソングブームは1960年代半ばに始まるが、東京圏のいわゆるカレッジフォークとは全く違った風が関西から吹いてきた。ザ・フォーク・クルセダーズの「帰って来たヨッパライ」と高石ともやの「受験生ブルース」だ。共に瞬く間に全国を席巻した。著者はその「受験生ブルース」の元歌の作者。本書は著者の個人史に沿って50年に及ぶ日本のフォークソングの歴史をつづったもの。

 中学生の著者はウディ・ガスリーとピート・シーガーを通してアメリカのフォークソングに出合う。彼らの歌に心酔した著者は、トム・パクストン、フィル・オクスらのレコードをすり切れるほど聴き込み、辞書を片手に訳詞し、自分でも歌を作るようになる。そうしてできたのがボブ・ディランの「ノース・カントリー・ブルース」の曲に詞を付けた「受験生のブルース」で、その歌詞とメロディーを作り替えたのが高石ともやの「受験生ブルース」だ。2つは「の」があるかないかの違いだが、著者にしてみれば、受験生の自分が書いたものと8つ年上の高石が「外から見た部外者」のものでは全く別の歌だという思いは強く、しばらくはこの歌を歌えなかったという。

 ともあれ「受験生ブルース」によってフォークソングの歌い手としての門が開かれた著者は、合格した大学に行くこともなく、全国各地をコンサートで巡る日々を送る。時は60年代末のベトナム反戦運動をはじめとする騒然とした時代。著者も、新宿西口のフォークゲリラの運動、岡林信康、五つの赤い風船といった関西フォークの台頭、中津川フォークジャンボリーの開催といった動きにきびすを接して歌っていく。

 しかし70年代に入るとそうした熱い時代が去り、著者もまた歌から離れていく。本書の大半は歌から離れた著者がなぜ再び歌い始めたのか、そして今も歌い続けているのかの心情が事細かにつづられている。フォークソングに出合って半世紀、時に揺らぎながらも一念を通してきた著者が、丹念に記した貴重な記録。 <狸>

(平凡社 3080円)

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