「クリスマスのフロスト」R・D・ウィングフィールド著、芹澤恵訳
警察小説には、メグレ警視、コロンボ警部といったユニークなキャラクターが登場するが、なかでも本書の主人公フロスト警部はひときわ異彩を放っている。現在のPC的には完全アウトな発言を連発し、「服務規程を守らず、地道な捜査と書類仕事が大の苦手、上司の命令を平気で忘れ、叱責すれば空とぼけ……」という、なんとも困った人物なのだ。
【あらすじ】ロンドンから70マイルの地方都市デントンの警察署ではちょっとした緊張が走っていた。ロンドンから警察長の甥っ子で刑事に昇進したばかりのクライヴ・バーナード巡査が赴任してくるからだ。
警察長閣下の覚えをめでたくしようともくろんだマレット署長は、クライヴを優等生のアレン部長の下につけようと思っていたのだが、アレンが体調を崩してしまう。署内には部長は2人しかいない。そのもう1人が署長の悩みの種であるフロスト部長。仕方なくフロストを教育係にするが、折しも売春を生業とするジョーンの8歳になる娘のトレーシーが行方不明になったとの報を受ける。 フロストとクライヴはジョーンの家に向かうが、ジョーンに対して下品な言葉を吐き、吸いかけのたばこを便器に投げ捨てるフロストを見て、クライヴは呆れてしまう。
しかし、事件解決に向けるフロストの執念は凄まじいものがあり、その推理も並々ならぬものがあることが徐々にわかってくる。捜査の中で古い白骨死体が掘り出されたことで事件はさらに混迷を深め、フロストはその渦中に引きずり込まれていく……。
【読みどころ】シリーズは全6冊で、テレビドラマ化もされている。アクが強く、反省という言葉と無縁なフロストの、正義感あふれる紋切り型の刑事にはない魅力が人気の秘密だろう。 <石>
(東京創元社 1034円)